◆◇◆スイカの<香り魚>の話◆◇◆

釣り好きの人にとっては待ちわびたシーズン入りでしょう。特にアユの友釣りは、一度とりこになってしまうと、もう止められないそうです。皆さんも店頭でアユを始めとする<川魚コーナー>が広がると、初夏を感じると思います。アユは<初夏の使者><清流の女王>と言われているのですから。

アユってこんな魚です
アユは、サケ目アユ科アユ属に分類されます。北海道西部以南から屋久島までの各地と朝鮮半島、中国に分布しています。台湾では絶滅したそうです。この東洋の珍しい魚を欧米に紹介したのは、かのシーボルト(江戸末期)で、以来、世界中で<ayu>と呼ばれています。

香魚
アユは仲間のサケやマスと同様、海水と淡水のどちらにも住むことができます。生後冬の間、海で動物プランクトンを食べて7cmほどに生育した稚アユは、3月から5月の海と川の水温が同じになる時期に群れて川をさかのぼり始めます。この後しばらくは昆虫などを食べますが、成長するに従って水中の石に付いた藻類を歯で削り取って食べるようになります。この削り取った跡を<はみ跡>といって、アユの大きさや数を把握する目安になるそうです。<アユは石を見て釣れ>という釣り名人の言葉はこのことです。

このように藻類が主食になってくると、スイカに例えられるアユ独特の香りを持つようになることから<香魚>の字が当てられるようになりました。脂ののってくる旬は7〜8月頃ですが、この香りはそれより前の若アユの時期の方が強いそうです。

友釣り
上流に向かうアユの群は次第に分散し、中流域に定着します。そして、力の強い者は自分のなわばり(1平米ほど)を確保します。アユは闘争心が強く、なわばりに侵入する者には容赦しません。体当たりで追い散らすのです。ところが、その体当たりした相手に針が付いていると自分が釣り上げられてしまうのです。おとりを使うとはなんと卑怯なやつだ、と思って見ると、そこには喜色満面の釣り人がいたというわけです。でも釣り人にすると、このおとりに自然な泳ぎをさせるには、相当な熟練がいるのです。釣り人とアユのこの息詰まるやりとりが<友釣り>の醍醐味です。

なわばりを持てるアユは<瀬アユ>と呼ばれるエリートです。エサも豊富で体は大きくなります。対してなわばりを持てずに淵で群れているアユが<淵アユ>です。当然成長が悪くなります。

年魚
アユの成長は驚くべき早さです。藻類を食べるようになると1日に1mmも育ちます。アユの数とエサの量のバランスや水温などで成長速度は大きく異なりますが、7、8月頃には大人になります。やがて秋になって婚姻色で体が黒ずみはじめると、再び群れて川を下り(下りアユ、落ちアユ)、地域によりますが8月下旬から12月にかけて下流域の砂礫底に産卵します。ふ化した子アユは川水に流され、海へと入っていきます。一方、親アユは産卵後にわずか1年の生涯を終えるので<年魚>と言われます。

放流
ところで、川で釣れるアユには一般的に、天然アユと放流アユの2種類があります。天然は文字通り、人の手が一切関わっていないということです。放流アユには人工産、海産、湖産の3通りがあります。人工産はふ化させ稚魚まで育てたアユ、海産は遡上するところを河口で捕獲したアユ、湖産は琵琶湖等で捕獲したアユのことです。これらを各河川に漁解禁前に放流しています。新聞に「天然物そ上良好」とか「海産何万尾放流」などと載っていますね。ちなみに、それぞれの判別はウロコの大きさによってできるそうです。

鮎と愛知
魚へんに占うで「鮎」。この字は本来ナマズのことでした。それがアユに使われるようになったのは、古事記や日本書紀によると神宮皇后が戦勝を占うために釣りをし、かかった魚がアユだったからと伝えられています。また、アユと呼ばれるようになったのはかなり新しいことのようです。今でも<アイ>と呼ぶ地方もあります。何と愛知県のアイチも、万葉集に登場する年魚市潟(アユチガタ)に由来しているそうです!

天然物と養殖物
アユの姿は皆さんもよくご存じだと思いますが、普通店頭に並んでいるのは養殖物です。天然物は高価すぎて、市場でも注文がなければ入荷しません。ちなみに、ネット上で通販価格を見たところ、四万十川産で3〜4尾(約300g)が4,500円でした!本マグロのトロ並ですね。

それでは天然と養殖の違いを見てみましょう。天然物はすらりとした流線型で口がとがっています。体色は黄黒色、腹は銀白色で胸びれの上の黄色の斑点が明瞭です。一方、養殖物は腹に脂肪がタップリついた肥満体型で、口先は丸く、全体に青みがかっています。これは勿論、エサの違いと運動不足によるもので、残念ながら<スイカの香り>はしません。

しかし、最近では、養殖業者の方の努力と技術革新により、天然に近い養殖物が高い評価を得ています。店頭で<天然仕上げ>とか<半天然>という表示で、普通のアユより3割ほど高い価格がついているのを見かけると思います。また、さらにその中でも研究熱心な業者が育てたアユは、姿も味も栄養価も天然物に迫るものがあります。できればいろいろ食べ比べて、お好みのアユを見つけてください。

目利きのポイント
体に張りがあって腹がしっかりしていて、透き通るような光沢を持ち、ぬめりの多いものが新鮮です。

調理のコツ・・・
アユといえば代表はもちろん塩焼き!でもこの際いろいろな料理にチャレンジして下さい。マリネ、唐揚げ、フライ、天ぷら、みそ焼き、南蛮漬け、酒蒸し、雑炊などなど。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2002年6月号