◆◇◆カキ食えば・・・・の話◆◇◆
昔から欧米でも生で食べられていた唯一の魚介類というのがカキだそうです。ローマ時代にはすでに初歩的な養殖が行われていたといいます。「海のミルク」というカキの形容も、その栄養豊富さを称えた欧米の呼び名です。カキは世界に100種類ほどいますが、日本近海には20種ほどが生息しています。その中でも、私たちが普通食べているのはマガキという種類です。
▼姿形もさまざま
カキは一見、合わせ目のない巻貝のように見えますが、二枚貝です。手にとってよく見ると、表面はゴツゴツしていますが片側が丸みがあって、片側が平らになっています。この丸みのある方を左殻と言い、平たい方を右殻と言います。ちなみに岩にくっつくのは、イメージに反して丸い左殻です。
カキの形は大型、小型、円盤状、棍棒状など種類による違いはもちろん、同じ種類でも個体差がかなりあり、個性的ですよ。今度買い物に行ったときに殻付きのものをじっくり観察してみてください。
▼名前の由来は
そもそもカキという名は、岩に張付いている貝殻を掻き(カキ)落として採取することから付いたと言われています。そして「牡蠣」という漢字は、漢語の「牡蠣(ぼれい)」をそのまま借用したものです。牡とはオスのことで、蠣とはゴツゴツした殻の形状を表しています。またここで、何故オスなのかというと大昔中国では「カキは塩水が凝結してできたものなのでオスしかいない。」とされてきたからだそうです。何とも無茶苦茶な話ですね。
▼カキの旬
欧米では、英語でRのつかない月(5〜8月)はカキを食べるなと言われますが、日本でも同じように「桜が散ったらカキを食べるな」と言われてきました。これは丁度5月から8月にかけてが産卵期に当たり、味が悪くなる上に中毒を起こしやすいためです。マガキの旬も10月〜3月で、この時季には体に栄養を蓄えるため、グリコーゲンの量がもっとも多く、風味もよくて、栄養価も高くて食べ頃です。
▼カキは大食漢?
天然のカキは、岩礁に付着して生息します。そして移動性がありませんのでただひたすら海水を取り込んで、その中の栄養分をこし取ります。ちなみにマガキの濾水量は1時間に25〜35リットルにもおよぶそうです。そんな訳で海水中にいる時のカキの胃の中は常に充満しています。でも干潮時には空気中にさらされ餌を取れなくなります。そこで考え出されたのが「養殖」です。カキが常に海水中にいれば、四六時中餌を取れるので、成長が早くなるという訳です。カキの場合は養殖でも味は落ちません。
▼カキの養殖
日本でカキの養殖地といえば、広島、三陸、伊勢、有明といった所が特に有名ですね。日本でもカキの養殖の歴史は古く、300年以上も前に広島湾で魚を囲い獲る「ひび」(木材や竹を海中に刺したもの)にカキが付着したのをヒントにして始まったという記録が残っています。その後長い時を経て、大正時代になって考案されたのが、いかだの下に連をつるす垂下式養殖です。この養殖方法によってカキの生産は飛躍的に増大しました。(長くなりますのでこの養殖方法の解説は省きます。)
▼火の用心に一役
江戸時代も初期の話、一たび火事が起きると、草葺(くさぶき)屋根ではあっというまに大火になっていました。そこで幕府が出した「お触れ」は「新築の家の屋根は草葺ではなく板葺きにすること。そして、板の上にはカキの殻を敷き詰めて、火の粉が燃え移るのを防ぐこと。」というものでした。このカキの殻を敷き詰めた屋根を「牡蠣殻葺(かきからぶき)」と呼んだそうです。現在の東京都中央区日本橋蛎殻町(通称米屋町)という町名もこれに由来すると言いますから驚きですね。
▼生食用と加熱用の区別は?
生食用の方が加熱用より鮮度が良いと思われがちですが、実は鮮度の問題ではなく殺菌処理の有無によるものなのです。大腸菌やその他の細菌が厚生省の定めた基準以下になるように、滅菌海水で殺菌してあるものが「生食用」で、そうでないものが「加熱用」の表示になります。また、実際の流通ではこの区分に加え、料理用途を加味して「加熱用」には大粒の物を当てるのが一般的です。
ところで、今お話したのは殻をはずした「むき身」のことで、殻に入ったままのカキはどうかと言いますと、殻付きのまま滅菌海水の流水中に一昼夜ほど入れて、体内の雑菌等を吐き出させます。横浜市場に入荷している殻付きカキはみな「生食用」で、外箱にその表示と消費期限(製造日を入れて4日間)が記載されています。
▼鮮度・品質を見分けるポイントは?
普通店頭で見かけるのは、海水パックに入ったむき身のカキですね。皆さんもまず目が行くのは、パックに表示されている賞味期限、価格、内容量ですよね。そしてフィルム越しに見える粒の大きさや色だと思います。この時の目利きのポイントとしては、身に丸みがあり、ぷっくりとふらんでいるもの。縁の黒いひだが鮮明なもの。貝柱が透き通っているものを選んでください。そしてサイズは料理用途によって分けてください。フライとか天婦羅であれば灰色がかった大粒のものが好まれますが、生で食べるのなら大き過ぎるのはいけません。中〜小粒で黒みの強い肌でぷっくりしているものが旨いですよ。
殻付きカキの場合は、持って重みのあるもの、口が閉まっていて生きているものを選んでください。こちらは店頭ではバラ売りされていることも多く、目利きもちょっと難しいので、賞味期限の表示がされていない時には、店員さんに確認してみてください。
▼カキパワー全開!
海のミルク「カキ」は栄養豊富な貝の優等生です。鉄分をはじめとするミネラルを豊富に含んでいます。また、含まれる糖質のほとんどはグリコーゲンといって肝臓の機能を高める働きをします。さらにカキのたんぱく質に含まれるタウリンはコレステロールを減少させたり血圧の上昇を抑えたり、網膜の発達や視力の回復にも効果があるという優れものです。これでは、今まで嫌いだった人も好きになるしかないですね!?
■メールマガジン<お魚よもやま情報>2000年10月号