◆◇◆サケ丸かじりの話◆◇◆

知っていました?11月11日は「鮭の日」です!そうです!勘のいいあなたはもうお解りですね。鮭という漢字は魚へんに「圭」です。これをもじって「十一、十一」で11月11日を「鮭の日」と定めました。誰が決めたかというと、新潟県村上市です。今では農林水産省 が後援して、鮭の栄養価と効能を大々的にPRしています。ちなみに横浜では磯子区の金蔵院に鮭塚がありまして、毎年この日に横浜中央市場水産部自治会により魚介類の御霊に感謝する「鮭供養祭」が執り行われています。

サケとマスの区別は?
サケとマスというのは、昔からかなり混同されていて完全に区別するのは博物学でないとできないといわれます。サケもマスも分類学的には科・属レベルまで同じ兄弟どうしです。日本での基本的イメージとなったのは、サケが海にすむもの、マスが川にすむもの、イトウが淡水にすむ巨大種ということです。ところがマスと呼ぶよりサケと呼んだほうがイメージが良いという商業的な理由から付けた○○サケという別名が通称となってしまった例もあります。また、たとえば和名の「ますのすけ」は、皆さんがよくご存知の「キングサーモン」です!逆に輸入物の「トラウト」を訳せば「マス」です。
というわけで、私たちがサケとマスをハッキリ区別しようとしてもあまり意味がないようですので、「通称」をそのまま呼ぶことにしましょう。

怪魚?二十面相!
1)白 鮭
昔から最も馴染み深い「鮭」で、別名ではたんに鮭、時鮭、秋鮭、秋味、メジカ、ケイジ、オオメマス、ブナ、ギンなどとも呼ばれます。こんなに別名があったのでは混乱してしまいますよね。逆に本名?の白鮭が小売店ではほとんど使われていないかもしれませんね。おおざっぱに言いますと、東京周辺では単に鮭とか秋鮭、北海道では秋味と呼びます。皆さんもよく耳にする通り、季節、新物をアピールする名前ですよね。時鮭とかトキシラズというのは、春から初夏にかけて沿岸に回遊してくる鮭のことで、脂がよくのっていてとても旨いですよ。そして、川をさかのぼる前の未成熟な鮭をケイジと呼ぶこともあります。また、このように海にいる時の鮭は体全体が銀白色をしていることからギンとも呼ばれます。それに対して川をさかのぼる頃になると、体全体が黒ずみ、まだら模様が入ってきます。これは婚姻色でこの状態の鮭ををブナといいます。ブナは色も身質もかなり落ちるため商品価値は下がります。
ところで白鮭というのは身の赤色が薄く脂肪分が少ないため海外での評価は低く、アメリカでは<ドック・サーモン>といって鮭類の中でも最下級とされているそうです。(失礼な!)欧米では概してきつい原色と脂が好まれるようですね。

2)銀 鮭
日本沿岸での水揚げはほとんどなく、北洋船団による沖取りと三陸地方を中心にする養殖物です。チリなどからも養殖物の輸入が多いです。年間を通して小売店で冷凍、解凍物、塩サケに加工されたものが販売されています。肉はオレンジかかった薄桃色で、カラフトマスよりも濃く、ベニサケ、キングサーモンの次に赤い色をしています。

3)紅 鮭
白鮭の婚姻色の話をしましたが、紅鮭の場合は、頭を除く体全体が桃色がかった鮮やかな紅色に染まります。テレビで放映されたことがあるので見た方もいると思いますが、数年おきにある大遡上(ビッグラン)の時にはこの紅鮭の群れで川が赤く見えるほどです。一般にサケ類は、赤みが強いほど美味しいと言われますが、紅鮭の肉はサケ属の中でも最も赤みが強く、とても美味しいです。(でも白鮭だって旨い!)最近では北海道で放流したものが毎年帰ってくるようになりましたが、今のところほとんどがアラスカ、カナダ、ロシアからの輸入物です。その量は輸入されるサケ類のほぼ半分を占めているほどです。

4)キングサーモン
和名はマスノスケ、別名にはフキマス、スケ、オオスケなどもあります。名前の通りサケ属中最大の種で、北太平洋の広い範囲を回遊します。遡上するのはカムチャッカ半島から北米大陸にかけての大河川です。アラスカにはそのものズバリ、キングサーモンという名前の町があるほどだそうです。日本近海での漁獲はわずかで、ほとんどがカナダを中心とする輸入物です。

5)カラフトマス
別名にはホンマス、アオマス、セッパリマスなどがあります。特徴は川をさかのぼる雄がいわゆる<鼻曲がり>になって、背中がいちじるしく盛り上がった<背っ張り>状になることです。体の大きさは他のサケ類に比べてやや小型で、60〜70センチほどです。日本では主に北海道北部の川に8〜9月に帰ってきます。また成長が早く、2年後には必ず帰って来るという習性を持っています。北洋漁業でマスと呼ばれているのはこのカラフトマスのことです。漁獲高は多いのですが、原魚での価値観が低いため、ほとんどが缶詰等の加工原料になっているので、皆さんに馴染みは薄いかもしれません。でも、イクラやスジコで「マスコ」と表示されているのはこのマスの卵のことですよ。

名前の由来
諸説ありますが、どれも決め手にかけます。
▽アイヌ語の「シャケンベ(夏の食べ物の意)」がなまった説。
▽身が裂けやすいことから「サケ」になった説。
▽身が酒に酔ったように赤いことから「サカケ」、これが転じた説。
▽勢いよく瀬を跳ね上がるから「瀬蹴」、これが転じた説。
 ムムッ、どれも本当らしくもあり、後で付けたようでもあり・・・?

ところで「鮭」という漢字はどうかと言いますとこれも定説がありません。そもそも「鮭」というのは誤りで、もともと中国から伝わったのは魚へんに生という字だった。鮭魚はフグのことだとする説もあります。でも今更それは困りますよね。十一月十一日をサケの日と決めてしまったのですから。

ふるさとの川
秋になるとサケの群れは産卵のためにふるさとの川をさかのぼります。生まれたサケは翌年の春には川を下ります。そして広い海を5〜6年の間何万キロも旅して、なぜ再びふるさとの川にたどり着けるのか?不思議ですよね。これは長い間ナゾでした。ふるさとの川の情報が代々遺伝子として受け継がれるのではと考えられましたが、両親がいた川と異なる川に放流した稚魚が自分が育った川の方に戻ってきたことから遺伝子説は否定されました。ということは稚魚の時の記憶があるということになります。
そこで次に行われた実験は、サケの嗅覚についてでした。可愛そうですが嗅神経を切断したサケは帰って来れませんでした。また、河口に戻ってきたサケの鼻に別の川の水を流し込むと後戻りしようとしたそうです。というわけで、サケは自分の生まれた川の臭いを記憶していることがわかりました。長い海の旅を終えて陸地に近づき、ふるさとの川の臭いを探し当てて、さかのぼるのです。

なぜ川と海両方に住めるの?
サケは川−海−川、ウナギは海−川−海と住む場所を変えます。何故このように両方に住めるのかというと、他の魚にはない特別な体の仕組みを持っているからです。海水中では体内に入った塩分をエラから汲み出し、体液の塩分濃度が上がることを防いでいます。それが淡水に入ると今度は腎臓から水をどんどん排出することで体液濃度の調整をはかリます。このような仕組みをもっているので、サケもウナギも川と海の両方に住める訳です。
ちなみに、海と川を行き来する魚でなくても、カレイやヒラメなど沿岸にすむ魚は、日数をかけて少しずつ塩分濃度を薄めていけば、しだいに淡水でも生活できるようになるそうです。

スジコとイクラ
スジコは日本語で、サケの卵巣ごと塩漬けにした未成熟の卵のことです。一方、イクラはロシア語でサケの卵巣を破り、一粒一粒独立させて塩漬けにした成熟した卵のことです。数年前からイクラには合成品が出回っています。ゼラチンに海藻成分を加え、透明で柔らかい膜の「カプセル」をつくり、これにイクラに似た味と匂いの植物油を注いで作ります。人工イクラは値段が安い上、ほとんど本物と見分けがつかず、コレステロールも少ないという優れものです。皆さんも知らないうちにどこかで食べているかもしれませんね。
ところで今年は北海道の秋鮭漁が芳しくなく、年末年始の需要期に向けて特にイクラの相場がかなり上昇しています。(-_-;)

サケ丸かじり−−−全身これ食用
サケはほとんど捨てるところがないほど、昔からたくさんの料理方法があります。頭の前背部の軟骨を三杯酢に漬け、薄くスライスしたものを<氷頭(ひず)なます>、腎臓の塩辛を<めふん>、冷凍にした身を薄く切り、ワサビ醤油で食べる<ルイベ>、塩サケを根菜とともに昆布だしで煮る<三平汁>、飯や野菜といっしょに漬け込む<いずし>、脊椎骨だけを水煮にした缶詰、燻製<スモークサーモン、トバ、ハラス>、その他にも鍋料理だと酒粕を使った<石狩鍋や十勝鍋>など各地に郷土料理もたくさんあります。一般的なところでは、塩焼き、照り焼き、ムニエル、フライ、ステーキ等々。

サケパワー全開!
サケの効能といえば、つい先日(11月8日)NHKの「ためしてガッテン」の「血液サラサラ食品大研究」の中でも、効果の高い食品の一つとして紹介さていました。サケには高度不飽和脂肪酸の中のEPA、DHAが多く含まれています。EPAは動脈硬化や血栓、ガンの予防にも効果的であると注目されています。またDHAは脳の発達を助けるとともにアトピー性皮膚炎の治療や老人性痴呆症の予防にも効果的であるとされています。またサケはビタミン類が豊富です。特にカルシウムの吸収を促進するDが多く含まれています。他にも成長を促進し、消化を助け、胃腸障害をやわらげる効果のあるBも豊富です。ちなみにエネルギーは、約80gの切身(白鮭)で134kcalです。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2000年11月号