◆◇◆七度洗えば鯛の味の話◆◇◆
▼イワシってこんな魚です
イワシという名は、獲るとすぐに死んでしまう弱い魚だから「弱し」が転訛したとか、上等な魚ではないので「卑し」が転じたものといわれています。漢字名もそのまま、魚へんに弱と書きます。イワシはこの大昔からのイメージが現代まで続いていて、残念ながら評価は低いですね。でも一方では「イワシ七度洗えば鯛の味」とも言われるほど、その美味さも認められていました。そんなイワシは、生態系にとっても、人間の暮らしにとっても、欠かせない重要な存在なのです。
▽入梅イワシ
普通イワシというと、マイワシを指します。ニシン目・ニシン科の魚で日本の沿岸を春から夏にかけて北上し、秋から冬には南下する回遊魚です。この他にも大規模な回遊を行わない地付きの群れもいますので産卵期は11月から6月と長く、おおむね北に行くほど遅れる傾向があるようです。一般的に旬は産卵期前の秋といわれていますが、関東地方での旬は、産卵前で脂がよくのった、ちょうど今頃の梅雨時です。これを入梅イワシと呼びます。ハマの魚河岸には、三浦半島の長井港や佐島から連日鮮度の良い、丸々としたマイワシが入荷しています。
▽名前がたくさんある!?
マイワシの見た目の特徴は、体側に瞳よりやや小さな黒点が一列に数個から十数個並んでいることです。このことからナナツボシの別名があります。ただ、この黒点は6cm位まで成長しないと現れません。また、成長の段階によって呼び名が変わります。3cm以下の稚魚をシラス、4cm前後のものをヒラゴあるいはカエリ、12cm以下を小羽、15cm前後を中羽、18cm以上を大羽と呼びます。でも、これは皆さんはあまり耳にしたことはないかも知れませんネ。ちなみに、大羽になるには3年以上かかり、寿命は7〜8年と言われています。
もっとも、マイワシもカタクチイワシも人間や多くの魚や鳥たちから、エサとして常に狙われる運命のため、寿命を全うできる者は1%に満たないと言われています。
美しい姿のキビナゴは性格もいたって穏やか、と言うよりひどく神経質で臆病です。群れの上を影が横切っただけでも驚いて逃げていってしまうほどです。マイワシやカタクチイワシと同様、食物連鎖の最下層に位置するキビナゴは両者のように多獲性魚ではありませんが、春先に多く獲れることから昔は肥料としたり、カツオの一本釣り用の生餌や養殖ブリの飼料として利用されてきました。密集した大群で行動するのも、あたかも1尾の大きな魚と敵の目を欺くための習性とも言われますが、残念ながら効果はないようですね。
▽いまやイワシは高級魚!?
まマイワシは10〜20年周期で漁獲量が大幅に変動することが知られていますが、その原因は未だに解明されていません。1980年代後半には年間450万トンも漁獲されていたのが、90年代にはその1割以下に激減しています。店頭でも1尾100円を超えるものも今や珍しくなくなりました。特に昨年の不漁は記憶に新しいところで、今年こそはと願っています。ところで、漁獲されたイワシの内食用となるのは1割以下で、大部分が飼料や肥料、魚油の原料として利用されています。
▼カタクチイワシ
別名には、シコイワシ、セグロイワシ、チリメン、タレクチなどがあります。店頭では、地域によると思いますが、シコイワシと表示されていることが多いでしょうか。成長しても12〜14cm程です。世界に近似種があり、ヨーロッパでは、塩漬けをオリーブオイルに漬けたものをアンチョビーといいます。ちなみにカタクチイワシの英名はジャパニーズ・アンチョビー、マイワシはジャパニーズ・サーディンというそうです!
▽シラス干し
カタクチイワシも幼魚期は透明に近く、マイワシと同様シラスと呼ばれます。水揚げ地では生シラスをショウガやワサビ醤油で食べます。このシラスを薄い塩水でさっとゆで揚げたものが「釜揚げシラス」、それを乾燥させたものが「シラス干し(チリメンジャコ)」、ゆでないでそのまま干したものが「タタミイワシ」です。マイワシのシラスはカタクチイワシのシラスより黒っぽく、見かけは悪いですが、脂肪分が多く、柔らかくて美味です。
体長35〜50mmの稚魚期はカエリと呼ばれ、煮干し(いりこ)、それに味付けしたゴマメ(田作り)などに加工されます。成魚は鮮魚として出荷される他、目刺しなどに加工されます。
このようにマイワシ、カタクチイワシは鮮魚の他、様々に加工され、知らない内に食べている?日本の食卓には欠かせない大切な魚です!
▼イワシパワー全開!
血液をサラサラにしたり、血栓や梗塞を防いだり、動体視力を養うのにも有効なEPA、DHAという不飽和脂肪酸が脂肪に含まれています。たんぱく質、脂肪とも良質ですし、皮膚、爪、髪の成長と細胞の再生を助けるビタミンB2が多く含まれ、さらにカルシウムも多く、おまけにその吸収を助けるビタミンDも含まれるという万能選手です!是非丸ごと食べて下さい!
▼マイワシの目利き
鱗がしっかりついていて、目が澄み、体側の黒点が鮮明なもの。但し、イワシのウロコは非常にはがれやすいので、小売店の店頭でウロコのびっしり付いているイワシに出会うことは少ないかもしれません。そんな時には、目と黒点が決め手です。イワシはことのほか鮮度が低下しやすく、脂質も酸化されやすいので、目利きが肝心です。また、体が丸々としていて、頭が小さく見えるものは脂がのっています。ちなみに、このようなイワシを魚河岸では金太郎イワシと呼びます。
▼調理のコツ
生臭みが気になる人は、ショウガや梅干しといっしょに煮ると気にならなくなります。特に梅干し煮にすると、酸によって柔らかくなった骨まで食べられ、カルシウムをたくさん摂れるのでおすすめです。酢で下煮しても同様の効果があります。
▽マイワシの手開き
イワシは弱い魚なので金属(包丁)を嫌うから手開きにすると言われていますが、身質が手開きに向いているとも言えます。要領が分かれば簡単ですので魚を開くなんて・・・・という方は、この際是非挑戦してみてください。やり方を「お魚よもやま情報資料館」6月号で写真付きで解説してあります。
▽シラス干しの塩分が気になるときは、熱湯を回しかけて水を切ります。塩分が流れ、同時に殺菌にもなります。また、塩分の摂りすぎを防ぐには、ナトリウムの排泄を促すカリウムを含む食品を一緒に摂ることが効果的です。カリウムは野菜、いも類、果物、海藻などに多く含まれています。
■メールマガジン<お魚よもやま情報>2001年6月号