◆◇◆たらふく食べたい魚の話◆◇◆

グツグツ煮えた鍋をみんなでつつけば話も弾みます。鍋物の魚といえば、フグにアンコウ、キンメダイ、鯛、ドンコ、鮭、ハタハタ、ホウボウ等々地域によってたくさんありますね。そんな中でも特に東日本では、タラがポピュラーでしょう。普通タラといえばマダラのことを指します。どうですか?姿が思い浮かびますか?大きな魚ですから店頭では切り身になっていて、なかなか姿を見る機会はないかも知れませんね。

マダラってこんな魚です
世界の北の海の底魚(そこうお:海底近くを住処にする魚)代表はタラの仲間達です。タラ目タラ科の魚は世界に30種、日本近海にはマダラ、スケトウダラ、コマイの3種が住んでいます。このうち、マダラは最大で全長1m、体重20kgにもなります!日本近海では、北海道から茨城県、山陰以北に分布しています。<画像は「お魚よもやま情報資料館」に展示してあります。>

またタラは、ヨーロッパや北米でもとても重要な水産資源で、1970年にはアイスランド沖合のタラ漁場をめぐって、アイスランドが漁業専管水域を設定したことに端を発し、アイスランド・英国間の紛争にまでなりました。これは鱈戦争と呼ばれました。

マダラは8割以上が水分で、身肉は繊維質、このため腐りやすく、腐るとアンモニア臭に変化するため、昔は評判の悪い魚だったそうです。当時は産地でしか生鮮で食べられなかったといいます。でも今ではもちろん、白く身の透き通るようなマダラが小売店に並んでいますね。

卵よりも白子の方が珍重されます
産卵前のマダラはメスよりもオスの方が高値で取り引きされます。それは身質もさることながら、オスの白子(精巣)がキクコ(菊)などといって珍重されるためです。また、卵(卵巣)は生タラコ、マダラ子、真子と呼ばれ煮付けると美味しいです。先月号のクイズのヒントにも書きましたが、たらこ・明太子というのは、スケトウダラの卵です。ちなみに、メンタイというのは朝鮮語でスケトウダラのことだそうです。

たらふく食う魚!?
マダラの下アゴにはヒゲがあります。これは「触ヒゲ」と呼ばれる感覚器官の一つで、暗い海底でエサを探すときに威力を発揮します。エビ、イカ、タコ、巻貝、カレイ、ホッケ、イワシなど見つけたものは手当たり次第、大きな口に放り込むといいます。あまりに食欲が旺盛で、腹が膨れあがっていることから、「鱈腹食う」という言葉の語源になったほどです。但し、鱈腹というのは当て字です。また、矢鱈(やたら)、出鱈目(でたらめ)ももちろん当て字ですよ。

雪の降る頃に獲れる魚
魚ヘンに雪でタラ、何とも風情のある字ですよね。字を見ただけで、冬の北国の魚だとイメージできます。これは中国伝来ではなく、国字だそうです。
それでは、真鱈の「真」は?というと、これはタイとかアジのように真が付いて真ダラとなったように見えますがそうではありません。つまり名前の由来は、体表の斑(マダラ)模様から付いて、その後「真鱈」という漢字が当てられたようです。また、漢字名には他に「大口魚」、「雪魚」というのもありますよ。いずれも「名は体を表す」の典型ですね。
そう言えば、真鱈の仲間のスケトウダラは魚ヘンに底ですし、コマイは「氷下魚」と書きます。本当に、名前を考え出した昔の人には感心します。

別名・・・
単に「タラ」というのは、もちろん「マダラ」の別名です。また、東北から関東では、3枚おろしにして、ひと塩にした真鱈を「ブワダラ」と呼びます。湯豆腐などに入れると特に美味いですよね。これは、鮮度が落ちて身がブワブワした真鱈を塩で締めて固くして食べたことに由来します。また、小型のものはポンダラとも呼ばれます。

京の生タラ
昔、京都では生タラが手に入らなかったことから、ヘェーッという珍しいものや、ありそうもないもののことを「京の生タラ」といったそうです。タラといえば干ダラや棒ダラなど日持ちのするものしか流通していなかったわけです。

エッ漢字で書くと「鱈場蟹」!?
タラが語源になった言葉の話をしましたが、タラの漁場のことを「鱈場」といいます。そしてその鱈場と同じ漁場で獲れることから名付けられたのが何と皆さんお馴染みの鱈場蟹(タラバガニ)だったのです!

タラバガニは実は蟹ではありません
おまけにカニという名が付いていながら、タラバガニはカニではありません。タラバガニ科のヤドカリ類なのです。大きいものは脚を広げると150cmにも達します。甘み、旨味が強くて人気の高いカニ?ですよね。でも残念ながら今年は少々品薄気味で高値が予想されています。

マダラパワー全開!
真鱈は白身魚で脂肪がきわめて少なく、タンパク質、ビタミン、ミネラルを含んでいます。このためニキビなど皮脂腺の分泌過剰な人や、肥満予防にはもってこいの魚ですよ!また、白子や肝臓には他にビタミンAやDが豊富です。Aは視力の維持や皮膚の健康に、Dは骨や歯を丈夫にするために欠かせない栄養素です。この冬は真鱈パワーで行きましょう!

目利きのポイント
真鱈の切り身の目利きを紹介しましょう。ぬめりがあまりなくて皮に光沢があること。身肉は真っ白で透き通るようであること。鮮度が落ちると濁ってきます。これらをポイントにして下さい。

調理のコツ・・・
鍋物にするには薄塩のタラでもいいですが、この際、鮮度の良い生タラをオススメします。昆布だしで豆腐や季節の野菜と煮立て、ポン酢醤油にお好みの薬味をきかせて食べればもう最高です!ただ鍋に入れる前にコツが一つ。タラの皮には鮮度が良くても独特の臭みがありますので、塩で締めた後に一度湯引きして下さい。こうしてから鍋で煮れば旨味が一層引き立ちます。そして最後は雑炊で真鱈を食べ尽くして下さい。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2001年12月号