◆◇◆おちょぼ口の夏魚の話◆◇◆

皆さんが店頭でよく見かけるキスは、天ぷら・フライ用として頭を取って開いてあることが多いと思います。それも生より輸入冷凍物の方が圧倒的に多いでしょう。これはキスが、天ぷら・フライの代表選手と言えるくらい適しているので開いておいた方が便利であることと、丸のまま並べる塩焼きにいい大型サイズの生鮮キスはかなり高価だからです。

キスってこんな魚です
シロギスは別名キスゴ、マギス、キスと呼ばれ、北海道南部から沖縄を除く各地の砂浜海岸でごく普通に見られます。国外では朝鮮半島や黄海、東シナ海沿岸、台湾に分布しています。生後1年で10cm、2年で15cm、3年で20cm前後になり、最大では30cmを超えます。寿命は5〜6年です。急に現実的な話になりますが、現在のハマの魚河岸の相場は、10cm級でk1300、15cm級でk2000、20cm上でk3000円超といったところです。これはもちろん、品質や産地や入荷量で日々異なります。

 

キスの名前と鱚という漢字の由来は定かではありません。江戸時代には別名の幾須子(キスゴ)とも呼ばれていたようですし、明治には鼠頭魚でキスと読ませたようです。ウ〜ン、ネズミも確かに顔は可愛いかも知れませんね。魚偏に喜でキスとしたのは日本のようで、中国ではこれを逆輸入して使っているそうです。

こだわり派
キスは湾内や沿岸の明るい底近く、特に岩礁と岩礁の間の砂地を好みます。光が砂底に反射して、金色を帯びた体色は見事な保護色となります。春から夏にかけて成魚は、水深1〜15mの浅瀬にいて、海底から40cm以下、特に15cm位のところを群れで常に泳ぎ回っています。キスにとって、この海底からの高さにかなりのこだわりがあります。キス釣りのポイントはもちろんここですね。秋になると底近くを泳いで水深30〜40mの深みへと住みかを変えます。

おちょぼ口
キスの産卵期は6〜9月頃で、一尾の雌が数回にわたって産卵します。ふ化した子供達は透き通ったシラス型で、5mより浅い岸近くで表層生活をおくります。この頃のキスの口は下あごの方が出ています。これは表、中層の動物プランクトンを食べやすくするためです。

キスは平和主義者です。武器もありません。敵が迫るともう必死に逃げまわります。泳いで逃げるだけではなく、危険を察知すると砂にもぐって口だけ出します。このユーモラス(失礼!)な光景は底層生活に移ると同時に見られるそうです。

今は昔の脚立釣り
昔から、海のキス釣りと川のアユ釣りは初夏の風物詩となっています。どちらも秋まで楽しめる人気の高い釣り魚ですね。さて、話は江戸前の海です。見て下さい。植木屋さんの使うような脚立が夏の海の中にたくさん立っています。その上に一人ずつ人が座っています・・・。近づいてよく見ると、釣り糸をたれていますよ。というわけで、これがとりわけ神経質で目も耳もいいアオギスを釣るために考え出した江戸前の「脚立釣り」だったのです。

この脚立釣りは江戸の後期に始まり、明治、大正、昭和と夏の東京湾の風物詩だったそうです。やはり、環境破壊と汚染で東京湾のアオギスは絶滅してしまいました。現在では九州の一部と台湾でしか見られなくなったそうです。

目利きのポイント
まずは目です。水晶体が澄んでいて黒目がくっきりしていること。身が締まって姿がすっきりと美しいこと。鮮度が良いほどピンクがかった象牙色の側線がはっきりしています。ウロコが取れやすいものはすでに鮮度が落ちている証拠ですよ。鮮度の良いキスが手には入ったら、まずは刺身で食べてみて下さい!造り方はアジなどと同じです。初めての人はきっと感動しますよ!

キスの天ぷらを上手に揚げるコツ
1)衣は薄くします。
2)170度程度に熱した油で揚げます。熱が均等に伝わるように、時々箸で返します。
3)身が浮いてきたらバットに上げ、油をよく切ります。
 カリッと揚げるには、薄い衣と油の温度を高めにすることがコツです。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2002年7月号