◆◇◆神様がつかわした魚の話◆◇◆

先週、全国紙の夕刊の1面に、大きな写真付きでこんな記事が載っていました。[青森県鰺ヶ沢町の七里長浜港周辺に、産卵のためハタハタの群れが押し寄せている。港内を真っ黒に変えるほどで、ほぼ30年ぶりの大群という。時間帯と潮によっては取り放題の状況で、”師走の贈り物”を手にしようと、地元住民ら数百人が連日、タモ網やロープを結んだカニかごを持って港に殺到している。同県水産試験場によると、今年はハタハタの産卵開始が例年より10日ほど早かったが、なぜ同港にこれ程の大群が押し寄せたかはわからないという。]???(^^)//""""""パチパチ

ハタハタってこんな魚です
今はシーズン真っ盛りなので、店頭で生のハタハタを目にすることも多いでしょう。鍋材料にもいいですし、丸干しなら一年中ありますね。でも子持ちで大型のものは、いまやかなり高価です。上の記事の通り、ハタハタも激減して久しいですから。

ハタハタはスズキ目ハタハタ科に分類されます。日本近海では、北海道沿岸、東北地方の太平洋岸から山陰以北の日本海岸に住んでいます。体形は横から押しつぶしたように平たく、腹が膨らんでいて非常に大きな胸びれと長い尻びれを持っています。また、口はほとんど真上を向いています。ウロコはなく、肌はなめらかな黄褐色で背中に黒い斑点があります。

普段は水深150〜400mのやや深い砂泥底近くで暮らしています。昼間は砂泥に潜り睡眠、朝と夕には小型の甲殻類や小魚、海藻などを食べるのが日課です。2年で大人になり、大きいものは30cmほどになります。産卵期は11〜12月、そう、丁度今頃、上の記事のように一斉に群れで海岸に押し寄せて産卵するのです。

雷、風雪、荒れた海が合図です
魚はたいてそうですが、ハタハタの行動の決め手は水温です。それも12〜13度位が限界です。それを超える水温域へは行けません。ハタハタは10月頃からそれぞれの群れが、それぞれの産卵場近くの深みに集まります。そこで岸近くの産卵場の水温が下がる時をじっと待っています。

冬の日本海、暗く荒れた海が代名詞ですね。冬の雷は日本海特有のものだそうです。冬型の気圧配置になると、時として、雷鳴が轟き、気温が下がり、風雪をともなって大しけとなります。これによって海はかき回されれ、水温が一気に下がります。こうして条件が整うと、ハタハタ達は一挙に沿岸の藻場に押し寄せるのです。

名前の由来
「青天の霹靂(へきれき)」とは急激な雷鳴のことです。また、霹靂神とは「はたたかみ」と読み、雷鳴の古語だそうです。この「はたたかみ」から「はたはた」の名が付き、魚偏に神という字が当てられたという説が有力です。また、漢字では他に魚偏に雷や燭魚という字が当てられます。

昔、貧しかった漁村の人々にとって、とりわけ冬の厳しい日本海にあって、雷鳴と共に突然現れる獲りきれないほどのハタハタの大群は、まさに<神様がつかわした魚>そのものだったことでしょう。・・・この情景は<幻の魚・ニシン>の群来(くき)を思い出させますね。

ハタハタの卵
ハタハタは海藻に卵を産み付けます。これはゴルフボール大の1000粒ほどの卵塊になり、秋田ではブリコと呼ばれます。歯ごたえが良く、数の子と同じように親しまれています。ちなみに、卵を持った雌をブリコハタハタと呼びます。

秋田名物
ハタハタと言えば秋田!ですね。民謡「秋田音頭」は「秋田名物八森ハタハタ 男鹿で男鹿ブリコ・・・」で始まります。八森町は秋田県最北の町、昔からハタハタの有数な産卵場として知られます。秋田名物として特に名高いのは、ハタハタずしとしょっつる鍋でしょう。

ハタハタずしは塩蔵したハタハタを水で戻し、酢に漬けて米と麹を混ぜ合わせ、カブやニンジンなどを散らしながら重ね漬けにしたものです。しょっつるとは塩魚汁(しおじる)がなまったもので、ハタハタを発酵させて作った調味料の一つです。これは魚醤(ぎょしょう)と呼ばれ、醤油が普及する以前からあった、調味料のルーツとも呼べるものです。この魚醤は各地に特有のものがありますが、他に有名なところでは八丈島周辺の「くさや液」などが代表格ですね。このしょっつるを使ってハタハタ、野菜、豆腐などを煮込んだものが「しょっつる鍋」です。体の芯から暖まる秋田の冬の代表料理です。

激減・禁漁・復活へ
秋田県では昭和40年代には2万トン以上あった漁獲量が、50年代には1万トンを割り込み、59年には何と74トンにまで激減しました。絶滅を恐れた秋田県では、平成4年から3年間の自主的な全面禁漁を実施しました。これが奏効して10年には600トン弱にまで回復してきました。復活への道は遠いですが、その後は漁獲量の上限を決めて大切に操業しているそうです。現在市場に出回っているものは韓国産が多くなっています。

目利きのポイント
背の模様が鮮明でつやがあり、目とエラブタに血が滲んでいないこと。卵を楽しむなら、腹がぷっくり膨らんでいて、卵が腹からはみ出していないことがポイントです。

▽「冬至はたはた」という言葉があります。生のハタハタを食べるなら冬至までということで、それを過ぎると体色が悪くなり、骨も硬くなって美味くなくなるという意味です。でも、今では各産地から鮮度の良いものが手に入りますので、この限りではないかも知れませんね。

ハタハタ料理
ウロコがないので調理は手間いらず、たいていは尾頭付きで洗うだけで使います。肉は骨離れの良い淡泊な白身。産卵前には脂がのって特に美味いですよ。料理用途は・塩焼き・煮付け・唐揚げ・天ぷら・ムニエル・鍋物等に。ブリコは椀種や鍋物にもいいですよ。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2002年12月号