◆◇◆夏の薄造りの王様の話◆◇◆

コチという魚は釣り好きの人はよく知っていても、一般的にはあまり知られていないようですね。当市場には毎日入荷しているのですが、小売店の店頭には並んでいることは滅多にありません。「メゴチ」という、一見コチの子供のような魚は、「天ぷら種」として馴染み深いですが、これは本家のコチとは全く関係ありません。コチの需要はもっぱら料理屋さんです。料理人の腕にかかると冬のフグにも匹敵する、<夏の薄造りの王様>に変身します。価格がべらぼうに高いわけではないのですが、すっかり高級魚のイメージが定着したのは何故でしょう?

容貌で損をしています
カサゴ目コチ科に分類されるコチの顔つきは決して美男、美女とは言えません。頭は押しつぶされたように上下に平べったく、頬が左右に張り、大きな口は受け口です。体も扁平で尾に行くほど細くなります。ウロコは細かく、体色は住みかの砂泥底色です。おまけに小さい目は上を向いてついていて、何と瞳が丸くないのです!瞳の形は半月形やハート形など様々です。この容貌を見た昔の人たちは、コチを食べると眼を患うとか、人の益になることは何もないなどという偏見を抱いて、すこぶる評価の低い魚でした。

でも、お隣中国の明代の書物には、「コチには毒がなく、人体を益する薬魚である」とされています。日本でも江戸時代には、コイ、スズキに次ぐ<夏の酒の肴の逸品>という高評価を得るに至りました。

 鯒(こち)の顔 器量悪くして うまかりし   草間時彦
 大きなお世話だ!と、コチはきっと怒っていますよ。(ー_ーメ)

生態・・・
コチは新潟、宮城以南の沿岸で水深40〜50メートルまでの砂泥底に住んでいます。体を砂泥の中に隠して、あの鋭い目だけを出し、辺りを見回し息をひそめています。そして、エビや小魚が近付くと、躍り出て、大口を開けて飲み込んでしまいます。

冬は深場の砂泥に身を埋めて越冬し、春になると再び活動を始めます。産卵はだいたい4月から7月に浅瀬に来て行います。成長は比較的早く、1年に10cm位のペースです。体長は最大で80〜100cmにもなります。

性転換
ところで、コチはこの成長の過程で劇的な変化を遂げます!生まれてから2歳までのコチはオスばかりです。ところが3歳頃から成熟が始まり、体長50cm以上ではほとんどがメスに転換するのです。成熟してから性転換する前まではオスとして、性転換後はメスとしての役割を果たします。
う〜ん、何故だろう、どうしてこうなったのだろう? コチはオスからメスへの転換ですが、この逆も、何度も、さらにオス・メス  ひとり二役などというパターンもあるそうです。世界で3万種もいる魚の内、わずか?500種が性転換することが知られています。

コチの頭は嫁に食わせよ
これはコチにかかわる俗言で、例の「秋なすは嫁に食わすな」と同様ですね。解釈も正反対の二通りです。コチの頭は骨ばかりで身が少ないので<嫁いびり説>。逆に、その大きな頭は意外にも滋味深いので<嫁可愛がり説>。
 <嫁いびり説>に対してはこんなアンサーソングもありますよ。(^^)
△コチの頭には姑が知らぬ身がある
コチの頬肉は最高の珍味と言われています。それ程でもないとは思いますが。

名前の由来
単にコチというのは別名で、標準和名マゴチのことを指します。でも、標準和名は最近になって付けられたものですから、名前の由来をたどるのは勿論コチです。これもいくつか説があります。神官が持つ<しゃく・こつ>に体形が似ていることから付いた、またはもっと単純に骨が硬いことからコツ(骨)、いずれもそれが<コチ>に変化したというものです。英名はいつもの通り単刀直入、<フラット・ヘッド>。
また、漢字の鯒は、魚偏に踊るを組み合わせたものとか、痛いを組み合わせたという説もあります。「踊る」は砂底から飛び出る様ですし、「痛い」はコチの持つ鋭いトゲのことでしょう。どちらもありそうですね。

コチパワー全開
低脂肪で健康な体の基本となる良質なタンパク質を多く含んでいます。また、含まれるリンやナイアシンは二日酔いに効果があり、ビタミンAは発ガンを抑制する効果があります。

目利きのポイント
もしも店頭で見つけたら、体の表面に光沢があって、腹が固いこと。ヒレのヌメリが透明であることが目利きのポイントです。また、腹は白いものより、黄色みがかっている方が脂の乗りが良いですよ。鮮度が良ければもちろん刺身が最高です。

調理のコツ・・・
高級感の漂う綺麗な白身です。淡泊でクセがなく、甘味が何とも言えません。そして何よりも、歯触りが最高です!あのフグにも引けを取りません。洗いにすれば、スズキにも勝ると言われます。そんなコチが店頭に並ばないのは価格のせいばかりではないのでしょう。コチには気の毒ですが、やはりあの容貌と、慣れない人には捌きにくい体形のためでしょうか。プロが料理をしてから出した方が、素直にその価値を認めてもらえますものね。地域によってはもちろんたくさん食べられていると思いますが。

・刺身にする時は引いた皮の側を下にして尾の方から薄く削ぎ切りにします。
・洗いは削ぎ切りにした身を氷水に放ちます。ちりちりと身が白く締まったらクッキングペーパーに取って水気を除き、器に氷を盛り、しその葉を敷いた上に盛り付けます。見るからに涼しそう〜。どちらもポン酢に紅葉卸が良く合いますよ。梅肉醤油でもいいですね。
・残ったアラは決して捨てないで、さっと湯通しして味噌汁にして下さい。最高のダシが出ます。
・他には涼しい部屋でちり鍋。塩焼きにしたコチを炊きたてのご飯と混ぜる<コチ飯>。煮付け、天ぷら、空揚げ、ブイヤベースにも向いています。是非、試してみて下さい。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2003年7月号