◆◇◆クラゲウオ!?の話◆◇◆

生鮮のイボダイは北の地方では馴染みが薄いかも知れませんね。関東でも開き干しの需要は高いのですが、生鮮物の人気は決して高くはありません。むしろマイナーな魚の部類でしょう。イボダイというのは標準名で、関東ではエボダイが通称です。西日本、特に瀬戸内や九州では昔からとても親しまれている魚で、各地に様々な呼び名があります。

イボダイってこんな魚です
横から見ると楕円形で平べったい形をしています。頭、口先は丸く、大きな目と小さな口が可愛いです。体色は銀灰色でエラ蓋の上に不明瞭な黒い斑紋があるのが特徴です。体長は最大で30cm位になります。全身にまとったウロコはとても剥がれやすく、流通の過程でほとんどなくなってしまい、小売店の店頭ではすべすべ肌の魚のように見えることが多いと思います。体表からねっとりした粘液を出し、これがバターを塗ったように見えることから英名はジャパニィーズ・バターフイッシュです。

生態・・・
イボダイも古くから重要な食用魚として親しまれてきた割には、その生態があまり研究されていない魚の一つです。イボダイはスズキ目イボダイ科に分類され、世界に27種、日本近海には4種が分布しています。仲間でよく知られているのはメダイです。ただ、メダイはかなり大きく(90cm)なりますし、色も違い、体高も低いためそれほど似ているとも思えませんが、顔つきは確かに似ています。それよりもむしろ近縁のマナガツオ科のシズ(バターフイッシュ)やオオメメダイ科のマルイボダイの方が外見はよく似ています。特に輸入魚のシズ(北・南米の沿岸に分布)はイボダイの別名と同じですし、開き干しにすると消費者にはほとんどイボダイと見分けられないほど似ていますので、すっかり混同されています(^_^;。

イボダイは太平洋側では松島湾以南、日本海側では男鹿半島以南から東シナ海に分布する暖海性の魚です。成魚は昼間は水深200m位までの底層を夜にはエサを求めて表層を群れで遊泳します。産卵期は住みかによって違いますが、だいたい6〜8月で、体長は1年で14cm、2年で18cm、3年で20cm前後になります。

クラゲウオって!?
クラゲとは切っても切れぬ縁で結ばれています!イボダイの卵は浮游卵で、孵化した幼魚期には表層を浮游するクラゲの傘に隠れて生活します。小さなイボダイが一見気味の悪いクラゲに守ってもらっている様子はいかにも微笑ましい絵です(^^)。クラゲの周囲には他にもアジやカワハギの仲間などが外敵から身を守るため、毒を持つクラゲを隠れみのにすることが多いのです。もちろん、これらの魚はクラゲの毒に対する耐性を備えています。ところが、イボダイの様子を見ていると何かヘンです。クラゲの傘の下をちょろちょろと泳ぎ回りながら時々、傘の下のフサフサした部分をついばんでいるのです(?_?)エ? クラゲの掃除をしてあげているの?いいえ違います。遠目にはクラゲと共生しているかのようですが、実はクラゲはイボダイにとって保護者でありながら大切なエサなのです!

そんな訳で、瀬戸内地方ではイボダイの幼魚をクラゲウオと呼びます。福井県などでも、クラゲの大発生した年はイボダイの漁獲量が増えるという言い伝えがあるそうです。そういえば昨年の秋、北陸地方でエチゼンクラゲが大発生して漁業者を悩ませたという報道がありましたが、イボダイの漁獲量は増えたのでしょうか!?

名前の由来
イボというと、どうしてもでき物を連想してしまって響きがよくありませんね。でもイボダイのイボはそれとは違います。エラ蓋の上にある黒い斑紋がお灸の跡<いぼお>に似ていることが名前の由来と言われています。では、疣鯛のタイはと言えば、もちろん「あやかり鯛」です。本物の鯛はマダイ、クロダイ、チダイなどわずか13種ですが、○○ダイと名の付く「あやかり鯛」はかなりの数がいます。有名?なところをあげますと、キンメダイ、アマダイ、イシダイ、コショウダイ、マトウダイ、アオダイ、チカダイ・・・等々です。これらの中には色や姿やイメージが、確かに「鯛」に近いものもいますが、ほど遠いものも多いです。イボダイも鯛の仲間とは・・・(^_^;

イボダイには地方名がたくさんあります。漁獲量の多い大分ではアメタ、シス。徳島ではボウゼ(昔から秋祭りにはボウゼのにぎりを食べることが慣わしだそうです)。大阪、兵庫、和歌山ではウボゼ、ウオゼ。愛媛ではアマギ、バケラ等々驚くほどあります。これは各地に「一般的な名前」が広まるよりもずっと昔から親しまれてきた証しなのでしょうね。ちなみに関東でエボダイというのは「イボ」を嫌って「エボ」にしたわけではなく、単なる東京訛りでイボをエボと発音していた名残のようです。。

目利きのポイント
体の色が黒っぽくヌルヌルしているもの。また、このヌメリが透明なもの。身に張りのあるもの。そしてもちろん、目が黒く澄んでいるものを選んで下さい。新鮮なものほど身がよく締まっており、下ろす時に骨離れがよくて調理がとても楽ですよ。

調理のコツ・・・
ウロコが剥がれやすいので、家庭で調理する時に一見ウロコが無いように見えますが、背や腹には残っています。ヌメリと一緒に包丁の刃先で丁寧にこすり落として下さい。さて、イボダイ料理です。神奈川では地上がりの鮮度の良い「エボダイ」が手にはいるのですが、何故か刺身で食べる習慣がありません。甘味があって実に美味いのにもったいないことです。代表料理はもちろん塩焼き。開いて生干しにすると旨味が凝縮されて一層美味しくなります。煮付け、バター焼き、照り焼き、味噌漬け、唐揚げも旨い!中華では蒸し物や揚げ物にします。近縁のバターフィッシュは米国では最も美味な魚の一つとして、ソテーやオーブン焼き、ムニエルなどにするそうです。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2004年9月号