◆◇◆カラフルな祝い魚の話◆◇◆
関東ではイトヨリダイといえば知る人ぞ知る魚で、姿の美しい高級魚というイメージでしょうか。当魚河岸にも周年入荷していますが、少量ですし、惣菜魚としては値段も高いのでその味を知らない人の方が多いと思います。逆に関西では祝い魚としても用いられるほど昔から親しまれている魚です。この違いは地元(近く)で獲れるかどうかということだけですね。でも、食わず嫌いの人たちは言います「熱帯魚みたいで食べたくない!」と。そう言わず、一度だけ食べてみて下さい。きっと、また食べてみたくなりますから(^^)。
▼イトヨリダイってこんな魚です
イトヨリダイはあっさりとした上品な白身で、骨は硬いですがとても柔らかな肉質です。特徴はもちろんその美しい姿です。体高は低く細長い体形で、紅色の背と白銀色の腹に鮮やかな黄色の縦縞が6本走っています。この縦縞は口から目にかけてと、背ビレや尻ビレ、尾ビレにもあります。特に、深く切れ込んだ二叉状の尾ビレの上端の縞は先端が金色の糸のように長く伸びています(O_O)。また、エラ蓋の上端に濃い赤の斑点が3個、1列に並んでいるのも特徴です。
いかがですか?美しい姿が目に浮かびますか?見たことのない人に言葉だけで伝えるのは難しいですね。百聞は一見にしかずです。
▼生態・・・まだ?が多いです
イトヨリダイはスズキ目イトヨリダイ科に分類されます。仲間には5属62種がいます。中部以南から琉球列島を除く東シナ海、フィリピン、ベトナム、北西オーストラリアにかけて分布する暖海性の魚です。水深40〜200mの砂泥底が住みかで、エビやカニ、ゴカイ、小魚などをエサにしています。産卵期は5〜8月で、産卵後の秋から冬にかけてが旬です。1年で12cm、3年で30cm、最大で50cm位になります。
仲間にはソコイトヨリダイ、ヒメイトヨリ、シャムイトヨリ、ヒライトヨリ、ニホンイトヨリ、タマガシラなどがいますが、最も似ているのはソコイトヨリダイです。キイトヨリとも呼ばれる通り、トレードマークの縦縞が3本と少ないのですが、特に腹を走る1本が太く鮮やかな黄色です。イトヨリダイと区別せずに流通していますが、やや水っぽく味も落ちます。
ちなみに、ニホンイトヨリは東シナ海からインド洋に分布し、ニホンにはいません (?_?)エ? が、タイやインドなどからニホンに輸入されています。
▼名前の由来
イトヨリダイを漢字で書くと、糸撚鯛、糸縒鯛、糸繰魚、金線魚、金糸魚等、別名も含めてこういう字を当てます。字を見るとなるほどイメージが湧いてきますね。やはり、漢字って素晴らしい(^^)。イトはもちろん尾ビレの先端が金色の糸状に伸びている様です。泳ぐ様子が、この金糸を撚っているように見えることから付いた名前です。鯛はもちろん「あやかりダイ」ですが、これは後で付いたようで、昔は単にイトヨリと呼んでました。英名は golden thread (金色の糸)です。
地方名にはイトヒキ(山陰、京都)、アカナ(鹿児島)、ヒナイオ(富山)、アバイトヨリ(和歌山)等々たくさんありますよ。
▼公方様の大好物
イトヨリダイは讃岐地方では「三升米」という別名があるそうです。これは、イトヨリダイ1尾が米三升に相当するというたとえです。さらにすごいのは1尾につき炭100俵というのもあります。徳川の11代将軍家斉はイトヨリダイがいたく気に入って、1尾献上する度に、褒美として炭100俵を与えたというのです!米三升と炭100俵、当時はどちらが高いのかよく分かりませんが、いずれにしても昔からいかに珍重されてきたかがうかがえますね(^^)。
美貌と美味を備えたイトヨリダイは、さらに色持ちの良さも備えています。水揚げされた後も色褪せないので「祝い鯛」として最適だったのです。
▼目利きのポイント
まずは目が黒く澄んでいること、黄色の縞模様が鮮やかであること、エラ蓋の上の赤い斑点が鮮やかであること、ヒレに透明感があることがポイントです。逆に、体色が白っぽく色褪せていたり、ウロコが剥がれてしまっているものは鮮度が落ちています。
▼調理のコツ・・・「糸撚鯛の 煮るには惜しき はなの彩り」
いざ調理しようと思って、まな板の上のイトヨリダイを見るとまさに「煮るには惜しき はなの彩り」と見入ってしまいます。が、やはり早く食べたい。そこで、調理のコツです。骨が太くて硬いのですが身が柔らかいので、ウロコを引く時にはユックリと丁寧にして下さい。刺身にするなら「皮霜造り」がオススメです。三枚に下ろして塩を振って30分ほど寝かせて身を締めます。そして、布巾をかぶせて熱湯をかけ(湯引き)、素早く氷水に漬けると身が白くならずに皮目が縮んで、旨味と甘味が引き立ちます。ポン酢、梅肉醤油、わさび醤油、生姜醤油、いずれにも合いますよ。蒸し物、煮付け、照り焼き、塩焼き、椀種、味噌漬けも旨いです。ブイヤベースやフライ、グラタンなどの洋風料理にも向きます。
■メールマガジン<お魚よもやま情報>2004年10月号