◆◇◆親が主役の話◆◇◆

ようやく?鍋物のシーズンですね。鍋物の代表魚といえば、フグ、タラにアンコウでしょうか。でも、このタラはマダラのことでスケトウダラではありません。漁獲量、消費量は圧倒的に多いのですがそのほとんどが加工品としての流通で、生鮮品としての割合はとても少ないのです。当市場にも毎日、鮮度の良いスケトウダラが入荷していますが、消費者の人気は今ひとつのようです。そんな親を尻目に卵のタラコ、メンタイコは子供から大人まで大人気ですね。卵が先か親が先かって? 言わずもがな、今月は「親が主役の話」です(^^)。

スケトウダラってこんな魚です
スケトウダラはタラ目タラ科に分類され、このタラの仲間は世界に30種、日本近海にはスケトウダラの他にマダラ(真鱈)、コマイ(氷下魚)が分布しています。共通の特徴は3基の背ビレ、2基の尻ビレとアゴの下の小さなヒゲです。スケトウダラの体形は細長く、頭はとがっています。目は大きく、大きな口は受け口です。底魚類とされますが、マダラのように海底近くではなくて、それより上の中層を回遊します。このため、海底の生き物を探すのに役立つヒゲがごく小さくなり、今ではその痕跡をとどめているだけです。

体色は灰褐色で腹は淡色、側線に沿って暗褐色のまだらな縦帯があります。外見はお世辞にも美しいとは言い難いですね。マダラに比べるとかなりスマートに見えますが、三枚おろしにするとスケトウダラの方が身が多い、つまり、歩留まりが高いのです。着痩せする?タイプですね。
最大で全長80cm、3kgにもなります。店頭で見かけるのは40〜60cmのものを煮付け、鍋物用に筒切りにしてあることが多いですね。

生態・・・
スケトウダラは千葉県沖からカリフォルニア州南部にかけての北太平洋、山口県以北の日本海、オホーツク海、ベーリング海に分布しています。夏から秋にかけては餌をとるために沖合を移動し、冬から春にかけて産卵のために沿岸に集まるという回遊を繰り返します。産卵前のこれからが旬で、成魚はお馴染みの卵か白子をたくさん抱えています。

産卵期になるとメスの群れが底層、オスの群れが中層に多く分布するため、つい最近まで、「底層で放卵−浮上−中層で放精=受精」と信じられていました。ところが研究の結果、雌雄1対で産卵することがようやく明らかになりました。受精卵はばらばらになって海中を浮遊し、1ヶ月ほどで孵化します。

稚魚は沿岸でオキアミ類やエビ類などの小型の甲殻類を食べて成長し、6、7cmになると沖合の中層や底層へと移動します。地域差がありますが、1年で15cm、4、5年で40cm位になって成熟します。成魚になると動物プランクトンの他に魚類やイカ類をエサにします。また、スケトウダラも同族の幼魚や未成魚を食べる「共食い」の習性を持っています。

名前の由来
先月号の漢字クイズ「佐渡鱈」の「佐」を漢和辞典で引くと、音読で「たすける/すけ」とあります。類義で「助」だそうです。スケトウダラは昔、佐渡の近海でよく獲れたことからこの名が付いたといわれます。また、「介党鱈」とか「助宗鱈」とも書きますが、こちらの「介」も同じく「助」の意味です。これは大量に獲れて網を揚げるのに「助っ人」がいるほどだから付いたと言われます。いずれも似たような由来ですね。それほどたくさん獲れたということでしょう。
当魚河岸では「スケソウ」と呼び、「助宗」の字を当てます。他にも地方名にはメンタイ、ヨイダラ、シラミダラなどユニークなものがあります。

スケトウダラはまずい?美味い?
スケトウダラは鮮度低下がとても早い魚です。そのため昔は評価が大きく分かれていました。方や「まずい魚の代表」、方や「マダラ以上に美味いタラ」。この差はもちろん漁場との距離です。鮮度の落ちたものは独特の臭いが鼻を突きます。これでは美味かろうはずがありません(¨;)鮮度の良いものが手に入った地域では、刺身を始めちり鍋、三平汁、塩焼き等々でその美味さを知り尽くしていたのです。ただし、刺身の場合は寄生虫アニサキスに要注意です。

食品業界の「ノーベル賞」!
大量に獲れて美味い!でも遠くに運ぶとまずくなる、という生鮮スケトウダラが脚光を浴びることになったのは、食品業界にとって「ノーベル賞」級の大発明があったためです。スケトウダラは冷凍後に解凍すると、肉がスポンジ状に変質するという困った特性があります。冷凍貯蔵が利かないため加工にも不向きとされていたのです。ところが、1960年に北海道水産試験場が驚くべき新技術を開発しました。それが「冷凍すり身化技術」です。これによって解凍後の変質が抑えられ、様々な加工が可能になったのです!

かまぼこ類や魚肉ソーセージなどの練り製品群、この技術を使って加工された食品は数え切れないほどです。この加工需要の急増に迫られて、スケトウダラの大量漁獲時代が始まりました。しかし、200カイリの制約を受けることなった1970年代後半以降は漁獲が減り続け、現在では冷凍すり身用の半分以上を輸入に頼っています。

何故「博多」明太子!?
ラーメンは全国に「御当地ラーメン」がたくさんありますが、辛子明太子の場合は「博多」で決まりですね。スケトウダラの好漁場からは遠い博多なのに知名度は全国区です。これは朝鮮半島に近いためです。スケトウダラは朝鮮語で「明太=ミョンテ=メンタイ」と言います。その卵だから明太子というわけです。戦前、卵巣を唐辛子をベースにした味付け液に漬け込んだ明太子が盛んに輸入されていました。ところが戦後、輸入が止まったため博多で自家生産が始まり、辛子明太子の発祥の地となったのです。ちなみに、国産のたらこ(塩蔵)は大正時代頃から出回っていました。

目利きのポイント
第一に目が澄んでいること。体表の色が濃くつやがあること。背中の肉に弾力があること。尾の部分の肉が厚いこと。腹にふくらみがあって弾力があることがポイントです。切身の場合は切り口がしっかりしていて、身の色が変色していないものが新鮮です。

調理のコツ・・・
たらちりや切り昆布との煮付けが定番ですが、脂質が少ないため揚げ物にも向いています。臭みが気になるのなら生姜を利かせて濃いめの味付けで甘辛煮や味噌煮がおすすめです。洋風ならブイヤベースやムニエル、フライにも。


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