◆◇◆三陸の年取り魚の話◆◇◆

当魚河岸でも昔からナメタガレイの名前で親しまれていますが、標準名はババガレイです。北海道から入荷するこの魚の箱にはババガレイとか母ガレイと書かれています。最近では「めっぽう美味いがめっぽう高い魚」のイメージが定着しています。残念ながら関西の方には馴染みが薄いかも知れませんね。

ババガレイってこんな魚です
店頭で見かけるババガレイは大抵は切身なっていますが、小型のものは姿のまま並んでいますので思い浮かぶ人も多いと思います。でも、カレイやヒラメは皆同じように見えて区別が付かないという人も多いでしょうね。

他のカレイは頭のとがっているものが多いですが、ババガレイの姿はいわゆる寸胴形の長楕円形で尾柄が短いため、体にいきなり尾が付いているかの様です。口はとても小さくて「タラコ唇」がぽってりしていて可愛いです(^^)。体表はヌルヌルした粘液で覆われ、有限側(眼のある側)は茶褐色で不鮮明な暗色斑があり、無眼側(眼のない側)は白色です。そして身は肉厚です。

ババガレイはカレイ目カレイ科に分類され、マコガレイやマガレイ、赤ガレイ、アサバガレイ、ヤナギムシカレイ(ササガレイ)など日本近海だけでも39種もの仲間がいます。日本海側各地と駿河湾以北の太平洋側の沿岸に分布し、水深50〜450mの海底の岩礁が住みかです。他のカレイは砂泥底を好むのですがババガレイは例外です。このため、岩礁に住むアイナメやメバル狙いでババガレイが掛かることがよくあるそうです。

生態・・・
近年、栽培事業のための研究が進められていますが、まだ未解明な点も多いようです。北海道の太平洋側に生息する一番大きな群れは、11月頃から南下を始め、翌年3〜4月に三陸沿岸に達して水深100m以浅の海底で産卵します。他に津軽海峡西部でも産卵場所が確認され、八戸近海では小型魚でも成熟し、産卵回遊しない根付きの群れも確認されています。

左ヒラメに右カレイ
卵は1.5mm ほどの分離浮游卵で、おおよそ12日後に孵化します。仔魚は5mmほどで、この時は眼が体の両側にあって平べったくもない「普通」の魚の姿をしています。ところが20日後位から大きな変化が始まります。なんと左眼だけが頭頂部を超して右眼の方に移動するのです!およそ2週間をかける引っ越しです。体の右側に両眼がそろったババカレイは、しばらくはその不安定な姿で暮らしますが、孵化後約2ヶ月で海底への生活に入ります。もちろん両眼のある右側を上にして、ようやく「安定した」姿になれるのです。さらに、体色も上側が暗色、下側が白色へと変わっていきます。

というわけで、腹を手前に置いた時に頭は右になります。右眼が左眼側に移動するヒラメはこの逆になります。つまり「左ヒラメに右カレイ」の誕生です。例外的に眼が左側というヘソ曲がり?のカレイもいますが(^^)。

▽ババガレイのエサはゴカイ類やヨコエビ類、クモヒトデ類などの底生小動物です。小さなタラコ唇で食べるのですから当然エサも小さいです。一方、ヒラメは他の魚やイカなどをバリバリ食べるため、大きな口と鋭い歯を備えています。この辺も好対照ですね。最大80cm、3.5kg以上にもなります

名前の由来
ババガレイは漢字で書くと婆婆鰈。別名のナメタガレイは滑多鰈。他にもアブクカレイ、アワフキ、アワダチ、テンカンガレイ、ウバガレイ等々、それぞれに親しみ深いのでしょうが、有り難くない名前のオンパレードです。どれも体表のヌルヌル粘液に由来しています。この粘液はかなり頑固で魚屋泣かせです。鮮度が良いほどこのヌルヌルが多く、洗っていると終いには泡立ってきて始末に悪いのです。この様はかなりババッチイとか、汚い老婆のようだ、いうわけでババガレイ。相当失礼ですね(^_^;。ヌメリが多いので滑多鰈という名は三陸が発祥の地と言われます。

もう一つ名前の由来−2
ところで、カレイという名の由来は「韓エイ(カラエイ)」が転じたものと言われます。朝鮮半島近海に多いエイに似た形のエイより美味い魚を表したというのです。また、高名な江戸時代の学者貝原益軒は、「片割れ魚」が転じてカレイとなったという説を唱えています。「一方は色かわりて白くして、目も一方につけり。かたわれのごとし」(^^)

さらに名前の由来−3
ヒラメも含まれるカレイ目は仔魚期を忘れて有眼側を上にして泳ぎます。これは生まれたままの姿からすれば横向きに泳いでいることになります。というわけでカレイ目の学名<Pleuronectiformes> は「横向きに泳ぐ魚」の意味だそうです。ちなみにこれを英名では<flatfish>つまり「平べったい魚」といいます。英名はいつもそのものズバリで分かりやすいですね。

三陸の年取り魚
「正月の食卓には子持ちのナメタガレイ・・・」というのが、三陸沿岸の習わしです。岩手県しかり、宮城県しかり。いつの頃から始まったのかは定かではありませんが、少なくとも江戸時代にはそうであったようです。12月上旬現在の三陸の市場価格は1kg当たり1200円位ですが、例年、需要の集中する年末には3000円以上に高騰するそうです。それでもなくてならない魚! それが三陸のナメタガレイです。仙台では年越しに欠かせないのがナメタガレイの煮付けで、年が明けて欠かせないのがハゼの焼き干しでだしを取った豪華なお雑煮だそうです。年越し年明けの習わし、区切りがついて気分一新、これからも大切にして下さい。

調理のコツ&ババガレイパワー全開!
鮮度のよい物が手に入ればもちろん刺身です。話の種に一度は是非食べてみて下さい。そして、ババガレイと言えば煮付けで決まりです!真っ白なとろけるような身はもちろんのこと、何と言っても極めつけは縁側です。ゼラチン質の脂がたっぷりでコラーゲンの宝庫です。縁側からヒレの部分ごと口に入れて身を残さず吸い取り、骨だけ出しましょう(^^)。もちろん美肌効果満点!素材が良いので、あまり濃い味付けや揚げ物より、煮付け、焼き物、蒸し物がオススメです。特に試してもらいたいのは「昆布蒸し」です。おろしポン酢によく合います。とても簡単に「高級料亭の味」を堪能できますよ。レシピをご覧下さい。

言い忘れましたが、丸のままのババガレイを買ってきた場合は、「問題」のヌルヌルを金ダワシで丁寧にこすり落とし、包丁の峰で細かいウロコを落としてからよく水洗いして下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2004年12月号