◆◇◆波のしずく魚の話◆◇◆

キビナゴは東日本では認知度が低く、当魚河岸でも今の時季三浦半島から鮮度の良いものが入荷しているのですが、評価の高い魚とは言えません。流通の主役は刺身用に調理されたパック商品です。それはもったいないとキビナゴ好きの地域の方は思われるでしょう。何と言ってもキビナゴは美味い!その上DHAやカルシウムが豊富な健康食品!それなのに安い!のですから、これを食べないのは「残念!」というものです(^^)。

キビナゴってこんな魚です
キビナゴはニシン目ニシン科キビナゴ属に分類されます。同属は世界に5種、日本近海には3種(他にバカジャコとミナミキビナゴ)が分布しています。全長がせいぜい10cmの小魚です。一見カタクチイワシ(シコイワシ)のような細長い体形をしていますが、近くで見れば違いは歴然。体側中央に1本の鮮やかな銀白色の太い縦帯が走っています。眼が大きく、尾ビレの後縁  は切れ込み、背中と腹はやや丸みを帯びて均整のとれたスタイルです。関東、山陰沖以南、インド洋、西太平洋の温帯から熱帯海域に広く分布し、外洋の表層付近を大きな群れで回遊しています。

ニシン科の仲間にはマイワシ、サッパ、コノシロ、ウルメイワシなどがいます。ちなみにカタクチイワシはニシン目カタクチイワシ科に分類されます。

生態・・・
外洋を回遊していたキビナゴは、春から初夏にかけて産卵のために海岸に押し寄せます。産卵前のこの時期には脂の乗った旬となります。そして、直径1.2mm前後の球形の卵を海藻や岩礁などに産みつけます。やがて孵化した稚魚は全長5mmほどで、動物性プランクトンを食べて成長します。昼間は水面近くを、夜には中、底層を大きな群れで遊泳し、5cm位に成長すると外洋へと旅立ちます。1年で成熟し、翌年の春から夏に産卵のために再び海岸に戻ってくるというライフサイクルです。寿命は1〜2年と言われます。

波のしずくか宝石か
銀白色の帯をキラキラ輝かせながら、海面すれすれを泳ぐキビナゴの大群は実に美しく、その姿は「波のしずく」とか「海の宝石」と最大級の讃辞を贈られています。

美しい姿のキビナゴは性格もいたって穏やか、と言うよりひどく神経質で臆病です。群れの上を影が横切っただけでも驚いて逃げていってしまうほどです。マイワシやカタクチイワシと同様、食物連鎖の最下層に位置するキビナゴは両者のように多獲性魚ではありませんが、春先に多く獲れることから昔は肥料としたり、カツオの一本釣り用の生餌や養殖ブリの飼料として利用されてきました。密集した大群で行動するのも、あたかも1尾の大きな魚と敵の目を欺くための習性とも言われますが、残念ながら効果はないようですね。

また、キビナゴは環境の変化に順応できません。きれいな海中でないと生きていけないのです。設備の整った水族館でも長期飼育に成功した例はないそうです。おまけに、死後の鮮度劣化もとても早いため、昔は刺身で食べることができたのは浜の人たちだけでした。今やその刺身が空を飛んでくる時代になりましたが。

夜間、光に集まります
キビナゴは走光性という習性も持っています。つまり、夜間に光を灯すと集まってくるのです。それも海面が銀白色に盛り上がるほどの密度で。そこにはもちろん人間の仕掛けた網が待ち構えています。キビナゴ漁はこうした巻き網漁や定置網、地引き網で行われます。産地として名高いのは九州、中でも鹿児島では郷土料理の材料として昔から親しまれてきました。

名前の由来
キビナゴは漢字では黍魚子とか吉備女子と書きますが、いずれも当て字です。鹿児島では帯のことを「きび」と呼ぶことから、帯を持った小魚、すなわちキビナゴと名付けられたという説が有力です。これを漢字で書けば「帯女子」が正解ということになりますね(^^)。

キビナゴパワー全開!
きびなごは、魚の中でDHA含有率がもっとも高いと言われています。またEPAやカルシウムも豊富な優等生です。DHAやEPAは魚の油に含まれる不飽和脂肪酸で、三大成人病(ガン、脳血管疾患、心臓病)すべてに予防効果があります。キビナゴパワーは強力ですよ。

目利きのポイント
ウロコはとても剥がれやすく、流通段階でほとんどなくなっています。決め手は眼が黒く澄んでいること、体に張りがあること、艶があって背の黒と銀白色の帯が鮮明であることです。これらのポイントがクリアされていれば刺身でいけます。腹が赤いものは未消化のアミが残っているためです。食べてももちろん大丈夫ですが、未消化物が残っていると鮮度劣化が早まります。

調理のコツ・・・開くなら指で、三枚下ろしなら小道具を使って
あまりに小さいので調理が面倒と敬遠される向きが多いのでは。それはやらず嫌い?食わず嫌いというものです。美味い魚を食べるには手間も楽しみです。さて、鮮度の良いキビナゴを手に入れて台所に立ちました。目指すは刺身です。まずはボウルに濃いめの塩水を作りキビナゴを入れて洗います。汚れと一緒に残っていたウロコも取れます。ザルにあけて流水を通し、バットに移して全体に塩を振りかけてから冷蔵庫に20〜30分置きます。それからさっと水洗いして、手開きにします。刺身は酢味噌で食べるのが定番ですが、生姜醤油や酢醤油なども合います。シャキッとした歯ごたえ、ツルッとした喉ごしがたまりません(^^)。

▽キビナゴは細長いので刺身の場合には開くのが一般的ですが、作るのが簡単な方がいいという方には小道具を使った三枚下ろしがオススメです。用意する小道具は、段ボール箱などを梱包する時に使われているバンドです。多分厚手のビニール製だと思うのですが、あのバンドの切れ端が10cmもあれば十分です。輪を作って両端をホチキスで留めればできあがり。洗ったキビナゴの頭を持ってまな板に置き、えら蓋の下からバンドの輪で身をそぎ取るのです。面白いように簡単に下ろせます。

▽次は唐揚げです。こちらは下ろす手間もなく、洗って水気を拭き取って揚げるだけの超簡単料理です。それでいてシシャモに似た二重丸の美味さです。ビールのつまみに最高! 他にも甘辛の生姜煮付け、フライ、天ぷら、一夜干しにしても美味いですよ。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2005年4月号