◆◇◆海のパイナップルの話◆◇◆

一般的には「マ」は付けず「ホヤ」ですね。当市場では周年入荷しています。通称「殻ホヤ」は原形の姿のままのもの、「ムキホヤ」はむき身を海水パックにしたもの、他には「ホヤの塩辛」の瓶詰めなども入荷します。東京・神奈川の小売店では量は少ないですが定番品です。皆さんの地域ではいかがでしょう。西に行くほど知名度が下がるのかも知れません。

マボヤってこんな動物です
ホヤの姿を初めて見た人は到底動物だとは思わないでしょう。根っこが生えていますし、目も口もなく、固そうな表皮は光沢のある朱色で、大小のコブのような突起がたくさんあります。長さ15cm、直径10cmほどの卵形をしています。どう見ても変な恰好(m_m) をした海の植物です。でなければ、貝の仲間と信じている人も多いようです。

下等動物?とんでもない(`_´)
マボヤは原索動物門・ホヤ綱・マボヤ科に分類されます。原索動物とは脊椎(せきつい)動物の亜門で、幼生期に脊索(せきさく)を持っていながら成長する過程でこれが退化してしまう動物のことです。脊索とは平たく言えば脊椎の原形です。この周りに炭酸カルシウムを主成分とする脊椎骨が形成されたものが脊椎動物です。つまりマボヤは無脊椎動物の中では最も高等な動物なのです(^-^)。逆に、脊椎動物の中では最も下等とも言えますが f^_^;
とにかくマボヤは水生動物の中にあっては、タコや貝類など軟体動物門やウニなどの棘皮動物門よりも上、脊椎動物門魚類の下に位置するわけです。

プラスとマイナス
卵形の体の頂上近くにひときわ大きな突起が二つあります。一つは入水孔で海水とエサの取り込み口です。閉じると十文字になります。もう一つは出水孔で海水や排泄物の吐き出し口です。こちらは閉じると一文字になります。入れる方がプラス、出す方がマイナスと上手い具合?にできています。店頭で殻ホヤを見かけたらじっくり観察してみて下さい。

チュニック
ホヤは柔らかな身を保護するために、チュニックと呼ばれる皮袋のような厚い外皮で覆われています。ホヤが「海のパイナップル」と呼ばれるのはこの外見がパイナップルに似ているからとも、さわやかな甘味のある食感がパイナップルに似ているからとも言われます。
「さわやかな甘味のある食感」!?ウソだろうと思っている方、あなたはお気の毒なことに鮮度の良いホヤを食べたことがないのです。

採れ立てなら生臭くありません・・・「ホヤはキュウリと食え」
初めてホヤを食べて「まずい。二度と食べたくない!」と嫌いになる人も多いようです。その訳は強烈な風味にあります。生きているものの身は磯の香りしかしませんが、採って数時間するとオクタールやシンチアノールなどが生成され強い風味となります。鮮度の良い状態を保っていればこの風味こそまさしくホヤで、磯の香りとすっきりした甘味と苦味が混ざり合った旨味が味わえます。ところが鮮度が落ちてくると香りは臭みに、旨味は苦味ばかりに変わり果て、それを食べるとホヤ嫌いの人になってしまうのです。ホヤは特に鮮度が命です。
三陸地方では昔から「ホヤはキュウリと食え」とか「藤の花が咲く頃が旬」と言われています。産卵後、体力が回復して最も太る時期が6〜7月、そうです。藤の花が咲き、キュウリの美味い夏なのです。

生態・・・
マボヤは三陸特産のように思われていますが、北海道から九州、朝鮮半島、中国の山東半島にも分布しています。特に多いのが岩手、宮城県の三陸沿岸です。ホヤの仲間は日本だけでも百数十種もいますが、食用にされるのはこのマボヤと北海道のアカボヤ、他にシロボヤ、エボヤくらいです。

マボヤは海中の岩盤などに根を張って固着しているため移動はできません。+形の入水孔を開いて海水を取り込みます。体内で海水中の植物プランクトンと酸素を濾し採り、呼吸と食事を同時にしているのです。これは二枚貝と共通しています。消化管を通った海水は糞と一緒に−形の出水孔を開いて体外に排泄されます。

オタマジャクシはマボヤの子!?
マボヤの生殖腺は中央に卵巣があり、その周縁に精巣があります。つまり雌雄同体なのです。11月から3月の産卵期には出水孔から精子と卵子を何度も噴出し、体外受精を行います。受精卵は2日後にふ化します。ふ化したホヤはパイナップルとは似ても似つかぬ恰好でオアタマジャクシのように泳ぎ回ります...<;O_o> 一生の内で、このように動ける期間はわずか半日から3日間です。終生の住みかを見つけると、頭部にある突起で岩などに固着し定住生活に入ります。
マボヤは1年で1cm、2年で10cm、3年で15cm位に成長します。食用にされるのは3年ものか4年ものです。

養殖が盛んです
現在流通しているマボヤのほとんどは養殖物で、岩手、宮城の三陸両県で全国の95%を生産しています。養殖の歴史は明治38年頃に始まるとされます。当時船の錨綱(いかりづな)に代用された山ぶどうのツタにマボヤの幼生がたくさん付着しているのにヒントを得て養殖が始まりました。以来工夫を重ね、昭和初期には養殖業として成り立つようになりました。出荷までの期間は3年と長いのですが、カキやホタテなどの養殖に比べて手間がかからないことが大きな利点です。
ところで、マボヤの天然物と養殖物との違いですが、比べてみれば外見は突起の形などで明らかに分かります。でも味についてはプロでも意見が分かれます。それほど違わないということです(^^)。

減塩天然うまみ調味料(^-^)
知名度と生産量ではマボヤに遠く及びませんが、北海道の赤ボヤもおすすめです。こちらはマボヤのようなたくさんの突起はなく、のっぺらぼうのようで、入水孔と出水孔がまるで二つの大きな耳のように頂上近くに付いています。色は見事な赤色。一見、マスコット人形のようで可愛いです。ところが北海道では漁業資源としてはこれまで軽視されていて、帆立漁などで混獲されると海中投棄されるのが現状のようです。そのため流通量もごくわずかでほとんどが道内消費です。こんな赤ボヤに注目して「減塩天然うまみ調味料」などを作るための研究が進められています。遠からず、高栄養で薬効の高い天然調味料が出現しそうです。

名前の由来
ホヤの名前の由来は不明です。現在の漢字名は「海鞘」ですが、昔は「老海鼠、保夜、石勃卒」などと表記していました。文献に残されているのは平安初期の延喜式が最古です。また、ホヤを食用にしているのは日本の他、中国、韓国とチリ、そして意外なことにフランスだそうです。

マボヤパワー全開! 冬のカキ・夏のホヤは栄養満点の優等生です(^^)
夏のホヤは冬に比べてグリコーゲンの含有量が8倍になり、甘味と旨味の増す旬となります。冬のカキは「海のミルク」と呼ばれるほど栄養価が高いことでも知られていますが、夏のホヤも決して引けを取りません(^-^)
マボヤは様々な病気の原因となる活性酸素の生成を防ぐ最強のミネラル「セレン・セレニウム」を含む数少ない食品の一つです。セレン・セレニウムの抗酸化作用はビタミンEの約500倍といわれ、ガン予防、心筋梗塞や脳卒中の予防、血行障害や更年期障害の改善などの効果が期待できます。他にもタウリンや鉄分などの有用成分を豊富に含む優等生です。

目利きのポイント
皮がはちきれそうなほど、ぱんぱんに張っていること。光沢のある朱色であること。磯の香りが強いこと。逆に、しぼんでいて皮にしわがあったり、朱色が黒ずんでいるものは鮮度が落ちています。むき身の場合はオレンジ色が鮮やかで身の締まりの良いものを選んで下さい。

おすすめクッキング
もちろん「生」が基本です。マボヤのむき身を塩もみしたキュウリと一緒に、二杯酢であえる酢の物と刺身が定番。ワカメやウドなどとの相性もピッタリです。他には、皮に切れ目を入れて直火で焼いた「焼きボヤ」、皮ごと二つ割りにして塩と唐辛子を加えて茹でる「茹でボヤ」、そして塩辛。いずれも左党には堪えられません。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2005年6月号