◆◇◆海の健康野菜の話◆◇◆

モズクは一年中いつでも店頭で見つけることができます。一般的には、小さなパックに入って味付きの酢が添えられていますので、器に移すだけで酢の物一品できあがりです。簡便な上に安くて美味い、しかも栄養豊富で美容効果も満点の優等生です。

モズクってこんな海藻です・・・
海藻類を色で分けると、褐藻・緑藻・紅藻類の三つに大別されます。モズクはワカメ、コンブ、ヒジキ、マツモ、ハバノリなどと同じ褐藻類の仲間です。食卓に上がった時の色を思うとワカメなどは特に緑藻ではと思いがちですが、細胞に黄褐色の色素体を持つため、体色は褐色です。それが湯を通すと退色して、その下地の葉緑素の緑色が見えてくるというわけです。

モズクは褐藻綱ナガマツモ目モズク科モズク属に分類されます。関東・北陸以南の各地の沿岸に分布していますが、特に多いのは日本海沿岸です。高さは15〜40cmになり、枝の直径はわずか0.5〜1mm と極細です。こ の枝は不規則に分かれ、互いに絡み合って、ホンダワラ類の体に付着して生息しています。このように藻に付くことから「モズク」と名付けられたと言われます。古来から親しまれていたモズクです。日本産のモズク属は本種だけです。

ところが最近ではこのモズクは、流通量の1割もありません。他の太いモズク類と違いを強調するために、<糸モズク・細モズク・絹モズク>などと称して販売されています。

オキナワモズクが全国制覇
流通量の9割を占め、一般的にモズクと呼ばれているのは「オキナワモズク」です。こちらはナガマツモ目ナガマツモ科オキナワモズク属に分類されます。沖縄本島や石垣島、奄美大島をはじめとする南西諸島の潮下帯に分布しています。高さは20〜50cmになり、枝の直径は1.5〜3mm とモズクの3倍もあり、他の藻には付かず海底の石などにつきます。歯ごたえや舌触りはモズクより柔らかいですが、今や一般的にモズクとして広く食されているのですから、むしろこちらをモズクと呼んでも差しつかえないと思います。カラフトシシャモと同様ですね。

その他のモズク類
日本にはオキナワモズクと同じナガマツモ科には他にフトモズク属とイシモズク属が1種類ずつ分布しています。フトモズクは枝の直径2〜4mmと最も太く、他のモズク類より枝分かれが少ないのが特徴です。関東、北陸以南に分布しています。イシモズクは枝の直径が2〜3mmで、太平洋側南部を除く日本各地に分布しています。海底の石やホンダワラ類の上に付着して成育します。モズクよりさらに歯ごたえがあり美味と言われます。オキナワモズクの養殖技術が進歩して大量生産が可能になった昭和50年代半ばまでは、それぞれの産地周辺で「ご当地モズク」が利用されていました。

海藻の旬と日本情緒・・・塩しみて心もかろしもづく売り
海藻と日本人との関わりは太古にさかのぼります。食用にされたのは古代からですが、奈良時代には「藻塩焼き」といって、海藻を焼いて塩を作ることや、食用の海藻を採取する儀式の「和布刈り(めかり)」が行われ、現代に至っても神社の神事として伝わっています。また、献納品として様々な海藻が使われていた記録も多数残っています。モズクはこの時代には、庶民には好まれていたようですが、上流階級にはそうでもなかったらしく、その名は書物には登場していません。

下って江戸時代になると、四季折々の旬を楽しむ庶民の暮らしが伝えられています。旬の産物を運ぶ行商の呼び声が江戸市中に季節を告げていました。春にはオゴやマツモ、ヒジキ、ワカメ、アオノリ、アオサ、そしてモズク。夏にはテングサ(トコロテン)、エゴノリ(オキウト)、トサカノリ、フノリ。初秋から冬にはコンブ、アラメ、ホンダワラそしてノリ。今では一年中何でも手に入り、便利この上ありませんが、その代償として季節感や風情が忘れ去られていくようです。

養殖・・・大量生産時代へ
モズクの養殖の歴史はわずか30年ほどです。それぞれのモズク類の養殖技術が各産地で研究されましたが、その中で先んじて大量生産に成功したのがオキナワモズクでした。1960年代に自然食ブームが起こり、モズクの需要も一気に高まりましたが、乱獲によって生産量は逆に低下していました。そんな折、いち早くモズク養殖の研究を積極的に行ったのが鹿児島水産試験場でした。次いで沖縄県でもこの研究に積極的になりました。試行錯誤を重ね、海底に網を張ってオキナワモズクを着生させさせる方法を考案しました。
1980年(昭和55年)には奄美大島で200トン、沖縄県では2,700トンもの収穫に成功したのです。しかしその反面、これだけ大量のモズクが一気に市場に流入したことで相場の大混乱を招きました。その後、流通経路の整備や新商品の開発等に努め、モズク酢の大ヒットで「家庭用インスタン ト食品」として全国に流通するようになったのです。

「海の野菜」海外進出!
日本は海藻王国として世界に知られます。海藻を常食とするのは日本の他は韓国と中国くらいで、日本食が流行しだしたつい最近までは、欧米人から見ると何とも不思議な食文化だったようです。逆に日本人からすると「Why」ですが、それもそのはず、米国では海藻を「seaweed」、直訳すれば「海の雑草」と呼んでいました。端から食べ物とは思っていなかったのです。ところが、肥満に悩む米国人が日本食のヘルシーさを発見してからは、雑草が野菜に昇格しました。「sea vegetable」の誕生です(^^) 。

モズクパワー全開!
海藻類が栄養豊富であることは昔からよく知られていましたが、その中の特定食品が爆発的にヒットしたのはマスコミの力です。健康と美容に特に関心が集まる最近はその傾向が顕著です。中には商業主義に走って、誇大広告を疑わせるものもありますので注意が必要です。

さて、モズクの栄養素です。モズクにはビタミン、ミネラルがバランスよく含まれています。また、食物繊維のアルギン酸などが豊富に含まれるというのが特徴です。これらの栄養素の中でも最近特に注目されているのが食物繊維です。これは海藻の持つヌルヌル成分の素です。このヌルヌルの成分には他にもフコイダンや寒天、カラギーナンと呼ばれる物質が含まれています。そして、このフコイダンを詳細に研究した結果、驚くべき働きが発見されたのです。

噂のフコイダンって何者!?
モズクに含まれるフコイダンは他の海藻に含まれるフコイダンと構造が違ってフコースという主成分が大部分を占めるという特徴があります。このモズクフコイダンの素晴らしい効能とは、癌細胞の増殖抑制効果、さらに癌細胞そのものに直接攻撃を仕掛ける作用があることです。

モズクパワーの全容をまとめますと、・血液サラサラにして動脈硬化予防・抗ガン作用・悪玉コレステロールを減らし善玉を増やす・肝機能向上・免疫力アップ・アレルギー症状の緩和・老化の抑制などです。つまり、超ヘルシーで美容にも良いのです。一度にたくさん食べるのではなく、普段の食生活の中にさり気なく度々登場させたい一品です(^^)。

エンジョイ・クッキング
モズクは酢の物と決めつけていませんか? 安い・美味い・栄養満点と三拍子揃ったモズクをもっともっと食卓に登場させて下さい。モズクには色々な料理方法があるのです。その一部を紹介します。お馴染みモズクの酢の物の他には、サラダ、スープ、味噌汁、雑炊、お焼き、卵焼き、天ぷら等々にしても美味しいですよ。簡単な料理が多いですから是非試して見て下さい。この時使うのはもちろん味付けされていない、生、若しくは冷凍、乾燥モズクです。塩蔵モズクの場合は、ザルに入れて流水で洗って下さい。浸け置きをすると味がぼけてしまいます。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年4月号