◆◇◆カレイの王様の話◆◇◆

関東で一般的にカレイと呼ばれているのはマコガレイのことです。ほとんど一年中、小売店で見かけることができます。カレイ類は特に「子持ち」が珍重されますが、マコガレイの場合は子持ちの冬場よりも、身肉の美味さが際だつ盛漁期の夏場が旬です。

マコガレイってこんな魚です
マコガレイの眼は大きくなく、メイタガレイのように飛び出してはいません。両眼の間にはウロコがあり、口はややとがっています。有眼側(眼のある側)は黒褐色、無眼側は白一色です。よく似たマガレイは両眼の間にウロコがなく、無眼側の背ビレと尻ビレの後方部が黄色くなっていることで区別ができます。両者とも店頭でよく見かけることができますので、じっくりと観察してみて下さい。

カレイの背ビレ・尻ビレ?
カレイのように平たい魚は、体の縁にヒレが付いているように見えます。背中は表側の黒い方で、裏側の白い方が腹と思っていませんか?カレイを調理したことがあれば分かるのですが、内蔵(腹)は眼・エラの右下にあります。裏側ではありません。つまり、眼を右にして置いた時に上にある長いヒレが背ビレで、下にあるごく短いヒレが腹ビレ、ちょっと間を置いて尾ビレのつけ根まで続いているのが尻ビレです。

カレイも生まれた時は、アジなどのように左右対称の側扁形で眼が両側に付いているのですが、左眼が右眼側に移動し始め、やがて左側に横たわります。ヒラメはこの逆です。「左ヒラメに右カレイ」というのは腹部を手前に置いた時の眼(頭)の向きです。ただし例外もいます。日本近海のヌマガレイは眼が左側にあります。ところが東に住むものほど右側に眼のあるものが増え、カリフォルニアでは左右の割合がほぼ半々になるという変わり種です。生まれて直に、あの平たい姿に変わるのなら、何も最初からその姿で生まれてくればいいのに・・・などと思うのは、カレイにとっては大きなお世話というものです。

生態・・・
カレイ類は世界に93種、日本近海には39種が分布しています。マコガレイは近縁のマガレイやクロガシラガレイ、アサバガレイなどとともにカレイ目カレイ科ツノガレイ属に分類されます。北海道から大分県までの日本各地と東シナ海から渤海までの沿岸部、水深100m以浅の砂泥底が住みかです。

産卵期は真冬。東京湾では12〜1月です。水深40m位までの砂泥底で産卵、放精を繰り返します。卵はカレイ類では例外と言える沈性粘着卵で、直径が0.8mm前後の球形です。水温によりますが、受精卵はおよそ1週間で孵化します。幼魚は全長2mm位の細長い体をしていて浮游生活を送ります。動物プランクトンを盛んに食べて成長し、全長9mm位から左眼の移動が始まり、13mm前後で完了して体を横たえ、底性生活へ入ります。

エサはゴカイなどの多毛類や甲殻類、二枚貝などです。メスのほうがオスよりも成長が速く、大きくなります。1年で11〜12cm、2年で17〜18cm、3年で20〜23cmになり成熟します。30cmに達するには6年を要します。さらに大きなものは40cm超になりますが、66.3cmという釣果の日本記録があるそうです...<;O_o>

漁法
底刺し網や底引き網、釣りで漁獲されます。釣りの対象魚としても人気が高く、釣り糸に掛かった時の力強い引き味と肉厚の身の美味さは「カレイの王様」と呼ぶにふさわしい魚です。神奈川でヒラメ・カレイ類の中で一番獲られているのが、このマコガレイです。

名前の由来・・・カレイとは?
江戸時代の貝原益軒の書物にカレイの由来として、「片割れ魚」が転じたという説が載っています。カレイが普通の魚の半分(片割れ)に見えるからだというのです。この説は中国の故事の日本語吹き替え版のようです(^^)。中国の春秋時代、越の王が船上で出された魚料理を食べた時、表半分だけを食べて残りを海に捨てたところ、その半身が海の中を泳ぎ出したというのです。そこでこの魚に付けられた名前が、王が余した魚「王余魚」。というわけで、これがカレイの中国名となりました。

カレイを辞書で引くと「カラエイ」が語源とあります。韓エイ(魚+票)です。韓とは朝鮮のことで、上等品の意味もありました。そこで、朝鮮近海で獲れるエイに似た姿の魚から、あるいは、そのエイより美味い魚と言う意味でカレイとなったというのです。こちらの方が説得力がありますね。それでは「マコ」はというと、この由来は不明です。漢字では真子と書きますが、現在使われている意味だと精子の白子に対して卵巣を指します。産卵期に卵をいっぱいに抱えた美味しいカレイという意味の地方名だったのかも知れません。
他にも地方名には、瀬戸内のアマテ、大分の城下ガレイ、北陸・山陰のクチボソ、宮城や福島のアオメなどなど、多数あります。

今や全国ブランドの「城下ガレイ」
身近な魚なので「ご当地贔屓」がたくさんあります。当市場ではもちろん、地元神奈川産や福島産の評価が高いですが、他にも北海道から瀬戸内、九州に至るまでご当地にとっては「1番」ばかりです(^^)。その中でも全国区の評価を得て、関サバのようにブランド魚ととして認知されているのが「城下ガレイ」です。

大分県別府湾の最奥にある日出(ひじ)町。江戸時代、日出藩の居城があり、その前浜で獲れたマコガレイを「城下ガレイ」と呼びました。お国自慢の献上品として、干した物を参勤交代の際に持参しました。これは他所のマコガレイと違うのです。その訳は日出の海にあります。海底に真水が湧き出しているため、海藻類やプランクトンの発生が多く、エサが豊富であることから多くの魚が集まるのです。この環境が肉厚で泥臭さがなく、旨味の濃いマコガレイを育てるのだと言われています。おまけに、江戸時代には胸ビレのつけ根に殿様の白い定紋が入っていると、たいそう珍重されたそうです。ただ、この白い斑紋は、他所のマコガレイにも見られるのですが・・・(^^ゞ。

目利きのポイント
大きさよりも肉厚のものの方が味が良いです。表面の色つやが良く、ぬめりがあること、腹側が綺麗な白色で鬱血がないこと、体に張りがあることがポイントです。

エンジョイ・クッキング
定番は煮付けに塩焼き、空揚げなどですが、鮮度の良いものが手に入れば、是非、刺身で食べて下さい。薄造りにするとヒラメに勝るとも劣らぬ味わいです。もみじおろしやポン酢が良く合います。ヒラメやカレイには縁側と呼ばれる部分があります。背ビレ・尻ビレのつけ  根の骨に挟まれた板状の肉のことです。ここは運動量が活発な部分のため、脂が乗っていて歯ごたえもあり、特に美味ですね。少量しか取れないのが残念ですが、コラーゲンたっぷりですので、刺身は勿論、煮付けなどにした時にも、残さず丹念に食べて下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年7月号