◆◇◆西瓜で鯛を釣る話◆◇◆

クロダイという名前は知っているけど食べたことがない、という人が多いかも知れません。関東でも実はごく身近にいながら、惣菜魚として大量に出回る魚ではありませんので、家庭の食卓にはなかなか登場しません。でも、一部に熱烈なファンがいます。釣り好きです。クロダイは釣り人にとって憧れの魚なのです。食べることより釣ることが好き???、何ともったいない・・・!
クロダイは、本家?マダイに並ぶ美味さなのです。

クロダイってこんな魚です・・・
クロダイは、スズキ目タイ科ヘダイ亜科に分類されます。マダイの体形によく似たタイ科の仲間なのですが、体色が赤くなく、その名の通り黒いことが大きな特徴です。日本に住むヘダイ亜科には他にヘダイ、キチヌ、ナンヨウチヌなどがいますが、いずれも、タイ型で銀黒色をした仲間たちです。

口はやや大きくとがり、攻撃用の鋭い犬歯と頑丈な臼歯を持ち、強力な顎の力で貝殻なども容易に噛み砕きます。背ビレや腹ビレには防御用の鋭い棘があり、尾ビレは二叉状に切れ込んでいます。成魚の体色は銀白色の地色に墨をかけたように、腹部以外はほとんど暗灰色に見えますが、よく見ると6〜7条の不規則な黒い横縞が入っています。これは幼魚時代には明瞭です。また、各ヒレは死後、さらに黒色に変色します。
精悍な顔つきと、このモノトーンの色調・・・これを地味とか冴えないなどと言ってはいけません。まるでマダイがぴしっと礼服を着ているようではありませんか。

生態・・・野生児クロダイは環境適応能力が高いのです(^-^)
クロダイは北海道南部から奄美諸島・琉球列島を除く日本各地の沿岸、朝鮮半島から東シナ海に分布しています。内湾の砂泥底が主な住みかで、塩分濃度の低い環境にも適応できるため、汽水域ばかりか、時にはエサを求めて河川をかなり遡ることもあります。大きな回遊はしませんが海水温の下がる冬場には深みに移動し、春の産卵期が近づくと再び戻ってくるというのが一般的な生活パターンです。でも、中にはこの季節移動をせずに一定の場所にとどまる「居着き」組もいます。

濁りを好む悪食家
クロダイは雑食性の悪食家としても知られます。およそ好き嫌いはないらしく、何でもよく食べます。主食はゴカイ類や小型のエビやカニなど甲殻類、貝類などの底生動物ですが、他にも海藻やら、流れてくる残飯にいたるまで、それが腐っていても一向に構いません。食あたりとは無縁の鉄の消化器を備えているようです。このような逞しい食性が、昔から中国やフランスで「タイは汚物を食らう魚」として下魚扱いされた所以(ゆえん)なのです f^_^;
日本ではメデタイ、縁起の良い魚なのですが。

また、クロダイは濁りを好むとも言われます。海中の濁りとは風や波などによって海底の泥がかき回されて生じるものです。本来、クロダイは夜行性に近く、日の出前と日没後の時間帯にエサを求めて最も活発に行動するのですが、海が濁ると昼間でも給餌行動をします。これは海底がかき回されたことで、クロダイのエサとなるゴカイや甲殻類を捕食しやすくなるためです。と言うことは逆に、釣り人にとってもクロダイを釣りやすくなるわけです。
「台風一過のクロダイは狙い目」というのは釣り人の常識だそうです。

産卵と旬
クロダイの産卵期は4〜6月です。普段の生活場所で8〜10mmの球形浮性卵を産卵します。受精卵はおよそ40時間で孵化します。仔魚は波打ち際を浮遊しながら動物性プランクトンを食べて成長します。やがて姿はクロダイらしくなり、底性生活へ入ります。生後1年で12cm、2年で19cm、3年で22cmと何でも食べる割には成長はかなり遅く、最大では60cmを超えるものもいますが、年齢は不明です。寿命は十数年と言われます。
クロダイは産卵後の夏場に体力回復に努め、エサを最もよく食べますが、脂が乗った旬となるのは秋です。冬に深場に落ちていくために体力を蓄えるのです。

性転換します...<;O_o>
ヘダイ亜科の魚は雄性先熟と言って、オスとして成熟した後メスに性転換します。クロダイの幼魚はすべてがオスで、10cmを超える頃には精子ができはじめます。15〜20cm位になると卵巣も発達し、雌雄同体になるのですが、産卵の際にはオスの働きをします。それが20cmを超える頃からメスの働きをするものが現れ、さらに、25〜30cmの4、5年魚になると完全にオスとメスに分かれるのです。逆に、雌性先熟の性転換をする魚にはアマダイやハタ科、ハゼ科などがいます。これらは恐らく、子孫を絶やさないために最良の方法なのでしょう。

磯釣りの王者は西瓜も好きです(^^)
釣りの醍醐味は、魚との駆け引きの難しさです。難しいほど釣り上げた時の満足感が大きいというものです。そう言う意味で、クロダイは磯釣りの王者と呼ばれます。クロダイは確かに何でも食べますが、無闇に食らい付くわけではありません。魚類の中では視覚、嗅覚は良い方ですし、何よりも聴覚が優れています。異音には敏感に反応し、警戒を強めます。眼の前のエサに対しても慎重です。まずはくわえて、安全を確信してから飲み込むのです。この辺が釣り人をワクワク、ドキドキさせる駆け引きです。そして、釣り針が掛かってからの強烈な引き!釣り上げるまでの戦いは釣り人を虜にします。

そんな「王者クロダイ」ですが、何とスイカでも釣れます。小さめに切ったスイカを撒き餌にして海面に流し、その風下で針を通したスイカを重りを付けないで流すのです。この時、外道としてフグやメジナが釣れることもあるそうです。

王者の名誉のために付け加えますが、クロダイは警戒心の強さと同じくらい好奇心も強い、正直な魚なのです。そんなわけで、スイカばかりでなく、海面を漂うカボチャやミカンも好きですし、時には針が隠されているキャラメルコーンまで飲み込んでしまうことがあるのです。狡猾なのは間違いなく人間の方です。

名前の由来・・・地方名がたくさんあります
クロダイは昔から人里近くに住む魚だったため馴染み深く、地方名や釣り方も実にたくさん伝えられています。クロダイの由来はもちろん黒い鯛。ではタイの由来はと言うと、諸説があって定まりませんが「平魚(タイラヲ)」、つまり、タは平たい、イは魚(イオ)で、これがタイの由来だという説もあります。

面白いことに英名も「平たい淡水魚」の意味の「bream」から命名されています。「black sea bream」です。

クロダイは標準和名となっていますが、関西では今でも「チヌ」です。漢字では「茅渟」。この由来も諸説ありますが、茅渟の海、現在の大阪湾でたくさん獲れたことからの命名という、かなり説得力のある説もあります。

知られざる出世魚です
成長の度合によって名前が変わる出世魚としては、ブリやスズキ、ボラなどがよく知られていますが、クロダイも出世魚です。地方によって異なりますが、神奈川では25cm未満をチンチン、25cm以上をカイズまたはケイズ、35〜40cm以上をクロダイ、50cm以上を年無し(ネンナシまたはトシナシ、要するに年齢不詳ですね。)と呼びます。

目利きのポイント・・・
丸魚の場合は、眼が濁っていないこと、体色が褪めていないこと、体に張りがあることがポイントです。切り身の場合は、身に弾力があること、血合いの赤が鮮明であることがポイントです。

エンジョイ・クッキング
クロダイは生息域によって、臭みが強い者もいますのでアラを使って汁物や煮物にする場合は、一度湯通しして水で洗います。鮮度の良いものはもちろん刺身が一番です。塩焼きや蒸し物、フライ、味噌漬け、鯛飯、西洋料理にも良く合います。色々な料理で楽しんで下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年9月号