◆◇◆喜んぶの話◆◇◆

日本料理の基本の出汁といえば、昆布に鰹節に煮干し。それぞれ料理用途によって使い分けられます。中でも昆布は古(いにしえ)の料理人達によって選り抜かれ、磨かれ、極められた「日本の味覚の素」とも言える食材です。忙しい現代では、それらのエキスをいいとこ取りした化学調味料が溢れていますが、昆布で出汁を取るのは手間のかかる面倒な作業ではありません(^^)。

昆布ってこんな海藻です・・・
店頭にはたくさんの昆布商品が並んでいます。干し昆布、塩昆布、酢昆布、おぼろ昆布、とろろ昆布、刻み昆布、昆布巻き、昆布茶に佃煮類等々。昔から日本の食卓に欠かせぬ存在です。最近は健康・美容ブームから、特にその栄養価と薬効が注目されています。テレビなどで海底に繁茂する昆布の姿や採集の様子を目にする機会もありますが、北の海では夏場(7〜9月)がその最盛期です。

昆布は褐藻綱コンブ目コンブ科コンブ属に分類されます。日本に分布するコンブ属13種はすべて寒海系で、北海道・東北に分布しています。日本海を挟んで朝鮮半島東岸以北にも分布します。

昆布は付着根で海底の岩に強く張り付き、円柱状の短い茎状部の上に長い帯のような葉状部を持っています。海中での色は概ね褐色です。採集は船上から「覗き眼鏡」で茂みを探し、マッカと呼ばれる5〜9mもある道具などで葉状部を絡めて剥がし取ります。熟練の技です。水揚げした昆布は2日間天日で干して乾燥します。その後、指定された長さに裁断し、選別して各漁協に集められます。漁協での検査・値決めを経て、全国に出荷されていきます。

代表的な食用昆布
食用昆布の形態はとてもよく似ています。分類学的には同一種とみなすべきとの声もありますが、日本人の眼と舌はそれぞれの違いを明確に捉えてきました。それは日本の歴史や各地の風土、文化と密接に関わっています。

・真昆布は道南の松前〜室蘭、青森県小泊〜宮城県に分布しています。上品な甘味のある澄んだ出汁が取れ、関西方面、特に大阪で出汁昆布として最も使用されています。

・利尻昆布は石狩湾〜利尻・礼文島〜知床半島に分布しています。形態は真昆布によく似ていますが、旨味は真昆布より薄く少し塩見がかっていて、上品な風味の澄んだ出汁が取れます。京都料理に欠かせない昆布です。

・羅臼昆布の正式名はエナガオニコンブといいます。厚岸〜羅臼、歯舞諸島に分布しています。昆布の王様と呼ばれるほど旨味が濃く、香りの高い出汁が取れますが、やや黄色みがかっています。透明度を重んじる京都には不向きです。

・日高昆布の正式名は三石(みついし)昆布といいます。渡島半島〜日高〜白糠、青森県太平洋側〜三陸に分布しています。甘味が少なく出し汁に若干色が付きますが、煮上がりが早くて柔らかいのが特徴です。出汁と煮物が兼用できる便利さが支持されて、関東で最も使用されています。

・長昆布はその名の通り最も長い昆布で、生産量が最も多く、釧路〜根室、歯舞諸島に分布しています。繊維質が少なく柔らかいので出汁には不向きです。昆布巻きやおでんなどに用いられる、煮物専用の昆布です。早煮昆布の商品名が付いていることも多いようです。

昆布番付----厳格な格付け!
昆布には厳格な格付け基準があります。真昆布などの場合は採集する浜自体が格付けされていて「浜格差」と呼ばれます。白口浜、黒口浜、本葉折り浜・・等々があり、さらに白口浜の中でも最上浜・・・があり、さらに加えて北海道水産物検査協会の検査により、概ね1等から5等まで格付けされるという念の入れようです(^_^;。もちろん、この品質認定の格付けが価格を決定づけます。

昆布だけに長〜い歴史と交易ルートがあります(^^)
北海の産物である昆布が日本の古い文献に登場するのは、8世紀初頭のことです。蝦夷地(当時は東北地方を指していました。)より大和朝廷に献上されていたことが記されています。鎌倉時代以降になると和人の蝦夷地(北海道)開発が進み、昆布は重要な交易品として海路敦賀に運ばれ、京に入り、瀬戸内を経て大阪、そして江戸へ。さらに九州、琉球へと長い年月をかけてコンブルートは伸びていきました。この間、昆布は各地の食文化に溶け込み、それぞれの昆布文化を育んでいきました。当時中国貿易の中継点だった沖縄は現代でも、昆布の消費量がトップクラスです。

よろこんぶ!!
昆布は何故縁起がよいのでしょう。まずは当時貴重品だったその姿、長〜いことが長寿につながりとても縁起が良い。さらに名前、コンブは「勝って喜ぶ」に通じるものとして武家の出陣式にも供えられる、極めて縁起の良いものとされました。これらが民衆に広がり、現代に至っても正月飾りや結納品などに縁起物として用いられています。

生態・・・
海中にうっそうとした森を形成している昆布には雌雄の別はありません。子孫を残すためには雌雄が存在しなければなりませんが、それは何処にいるのでしょう。夏の終わりから秋になると周囲の岩に張り付いて発芽したオス、メスそれぞれの配偶体が無数にいるのです。ところがそれは顕微鏡でないと確認できないミクロの世界です。

これは成熟した昆布が葉の表面から放出したものです。冬にはそれぞれが精子と卵を海中に放出して受精します。受精卵は再び着底、発芽し、いよいよ昆布として成長し始めます。それは驚くべき早さです。1年目の夏までに長さだけは大人並になります。しかし、まだ薄っぺらで味も悪いので「水昆布」と呼ばれます。

この1年目の葉は秋口には先端から枯れ始め、古い葉を追い立てるように新しい葉が成長し始めます。2年目の春にはすっかり新しい葉になり、夏を迎える頃には身も厚くなって成熟するのです。まさに旬、採り入れ時です。

養殖の話
昆布養殖は1940年代に始まりましたが、天然物と品質の差がかなりありました。大きく進歩したのは1970年にミクロの世界を管理する技術が考案されてからです。これは1年で出荷ができるという画期的なもので「促成栽培養殖」と呼ばれます。その後も品質をより天然物に近づけるために研究が続けられ、2年養殖(実質20ヶ月)も実用化され、天然物に負けない良質な昆布が安定して生産されています。

名前の由来・・・中国語?アイヌ語?日本語?
書物にコンブが登場する最古のものは中国の漢代初期以前で、昆布という字が当てられるようになったのは紀元300年頃とされています。この文字がその後日本に伝わったというのです。とんでもない大昔の話ですが、さらにこの起源はアイヌ語にあるのではという説もあります。元来、中国には昆布は分布していなかったと考えられ、それを中国に伝えたのがアイヌだったと言います。その根拠はアイヌ語のクンプです。これがコンブに転じたのだと。
一方、日本語説では、コンブの古語「ヒロメ=広布」、これを音読すると「コウフ」、これが転じて「コンブ」になったと。
さて、皆さんはどの説を支持しますか?
ちなみに、中国ではその後「昆布」はワカメのことを指した時期もあったそうで、現代ではコンブは「海帯」と表記します。

昆布パワー全開!----- 「出汁がら」こそ栄養の宝庫です!
昆布は低カロリーでアルギン酸やフコイダンなどの食物繊維が多く、牛乳との比較ではカルシウムは71倍、ミネラル:31倍、鉄分:39倍、ビタミンA:5倍、B1:16倍など、超のつく健康食品です。ただし、これは出汁にすべて流れ出すわけではありませんので、すべて食べた場合です。昆布に「出汁がら」はありません!

エンジョイ・クッキング----コンブ出汁のコツ
<出汁の取り方>
昆布の表面に白い粉が付いていることがあります。これはカビではなくマンニットと呼ばれる旨味成分です。水洗いなどせずに、固く絞った布巾などで表面のホコリを拭き取る程度で十分です。

煮出して出汁を取る時は、昆布を鍋に入れて水をはり30分ほど置いてから火にかけます。温度がユックリ上がるように中火に調節し、沸騰する直前に昆布を取り出します。出汁を良く取ろうと煮立ててはいけません。コンブのヌメリと臭みが出て、逆にまずくなります。

水出しで出汁を取る時は、水をはった鍋に昆布を入れて、夏場なら2時間、冬場で4時間置きます。量を作り過ぎたり、すぐに使わない場合は、出汁を容器に移して冷蔵庫に保管すれば2〜3日は保ちます。上等な昆布であれば、2、3回は出汁を取ることができます。もちろん出汁を取った後の昆布は捨てずに冷凍保存して、たまったら煮物に使いましょう(^^)。

<保存方法>
出汁昆布は普通、100gとか200gの袋入りで販売されています。出汁を取るだけなら使う量はわずかなので、結構使い出があります。残りを保存する時は、冷蔵庫や冷凍庫に入れないで下さい。常温でないと風味が失われます。残ったものはポリ袋などに入れ、缶などの密封容器に入れて陽の当たらない涼しい場所で保存して下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2007年8月号