◆◇◆めでたい海老の王様の話◆◇◆

お正月のおせちセットに、このイセエビが入っていたら、ひときわ豪華に見えますね。ん万円?のセットでしょうか。食べる前にその姿で楽しませてくれるのがエビの王様の威厳というものです。高嶺の花の高級食材で、市場では活物はもっぱら料理屋さん向けに取引されています。

イセエビってこんなエビです・・・
イセエビの特徴は何と言っても一対の立派な長いヒゲです。これは第2触覚で、第1触覚はその内側にあり、細く途中から二叉に分かれています。大き な円筒状の頭胸部の背面は多数の小さな棘で覆われ、突き出た眼の後方には鋭い角のような一対の突起があります。続く腹部の背面は滑らかで硬い甲が短い毛の生えた横溝で仕切られ、節に分かれています。この側面にも尖った鋭い棘が並んでいます。力強い尾は扇を重ね合わせたように横に広がっています。5対の歩脚は細いですが頑丈で、海底を歩くことに適しています。目立つ斑紋はなく、体色は食べ物によって変わりますが普通は濃い赤褐色です。エビと名乗ってもその大きさは国内では群を抜いています。体長は普通30cmほどですが、まれに40cm、体重2kgに達する大物もいます。

この姿はまさに強固な鎧をまとった武士そのものです。見る者を圧倒し感嘆させる力を持っています。古くから「縁起が良い」と珍重されたのも頷けますね(^-^)。

日本の目出度さのシンボルです
何が目出度いと言って、伊勢海老ほど目出度いものはありません。あの立派な長いヒゲ、腰を曲げて歩く姿、海の老人は長寿の象徴です。ましてや、武者の甲冑の見本となりそうな、見事な甲羅。もう目出度さの極みです。
と言うことで、正月のお飾りとご馳走、婚儀などあらゆる祝宴、神仏への供物、兜の前立て等々、イセエビの姿なしには日本の祝い事は始まりません。

ただ、際立った姿のために損?をしているのかも知れません。食べる前に味に過大な期待を抱かせてしまうのです。この姿なのだから食べたことがないほどの美味さなのだろうと。「姿のイセエビ、味のクルマエビ」と言われるのは、味がクルマエビに劣ると言うより、自分の姿に勝てないということのような気がします。美味さは甲乙付けがたい程なのですから。

イセエビは十脚目イセエビ科イセエビ属に分類され、主に千葉県以南の太平洋側、九州沿岸から南西諸島、台湾などの黒潮に接する海域と対馬暖流に接する韓国南部沿岸の岩礁やサンゴ礁域に分布しています。近年では温暖化の影響か、宮城県でも見られますが漁獲対象になるほどではありません。

生態・・・イセエビの不思議な世界(@_@;)
イセエビの住み家は水深数メートルから十数メートルくらいの岩礁地帯です。昼間は岩陰に潜みじっとしています。この住み家の中を覗くと数匹が同居しています。また周辺の別の住み家にもそれぞれ同じくらいの数がいます。ぎゅうぎゅう詰めの満員状態になっているわけではありません。まるで計算されたように同居人の数に偏りがありません。さらによく見ると同居人の性別と年齢が同じなのです。離れた別の地区の集落は同様に別の年齢層の集合住宅で構成されています。

これは偶然ではありません。長年の研究と観察、漁業経験によって解ってきたイセエビの習性の一つです。一つの住み家を奪い合うことなく均等に配分されています。同居人の一部が漁獲されるなどして数が減るといつの間にか欠員が補充されて定員に戻っていることもあります。そして、年を取ると次の集落へ引っ越します。また、季節による深浅移動も合わせて行います。実に秩序立った平和な集団生活です。これは住環境に重大な変化がない限り毎年変わりません。このイセエビにとっては当たり前の行動も人間にとっては驚きです。紀伊半島熊野灘のごく限られた磯で獲れるイセエビが最上とされるのは、この習性のためなのです。

好物と天敵
イセエビは典型的な夜行性です。それも音や光にとても敏感で、雷や満月の明るさも嫌います。暗い夜になるとエサを求めて活動を始めます。好物は小型のカニやエビ、貝類、ウニ、海草などです。頑丈な顎で殻など容易く粉砕してしまいます。逆に天敵はマダコです。発見されると逃げ延びることは望めません。強力な尾で後ろに飛び退いて運良く岩穴に逃げ込めても、マダコは脚を突っ込んで吸盤で引きずり出してしまいます。出会わないことを祈るばかりです(..;)。

習性を利用した漁法と旬
イセエビ漁は主に刺し網で行われます。夕方、イセエビの通り道をさえぎるように網を仕掛け、網目に絡ませて獲ります。翌朝網を巻き上げ、掛かったイセエビを丁寧に網からはずすのが一苦労です。脚の一本が欠けただけでも商品価値が下がるからです。イセエビの第二触覚の基部には発音器があって船上に引き上げられるとギィギィと悲痛な叫び声をあげます。他には潜水手づかみ漁、そしてタコ脅し漁です。天敵のタコを長い竿の先に吊してイセエビの住み家に入れ、驚いて飛び出したところをタモ網ですくい獲るという、何だか子供じみていますが、まさに的確な漁法です(^_^; 。

資源保護のためイセエビの産卵期は各地禁漁になります。期間はおおむね5月から8、9月です。漁獲量は解禁直後が一番多く、次第に減って1、2月頃最低になります。漁の最盛期である秋が旬とも言われますが、最も味がよくなるのは産卵期を控えた冬場です。寒さで引き締まった身はプリッとしていて上品な甘味と旨味が味わえます。

幼い子には旅をさせろ
産卵した卵は受精しメスが腹部に外子として抱えます。400gのメスで55万個もの卵を産みます。水温によりますが孵化するまでの1〜2ヶ月の間メスが卵を保護し続けます。やがて孵化した幼生はわずか1.5mmの透明なプランクトンでフィロゾーマと呼ばれます。親とは似ても似つかぬ姿です。浮遊生活を始めたフィロゾーマは黒潮に運ばれ遙か南の外洋へと旅立ちます。それも1年にも及ぶ長旅です。この行き先については長い間謎でした。

フィロゾーマは黒潮の沖合水域で成長を続け、この間20回以上の脱皮を繰り返します。再び北上する黒潮に運ばれながらガラスエビとも呼ばれる2cmほどのプエルルス幼生へと変態した後、日本沿岸の各地で着底生活に入ると推定されています。親の姿と同じ稚エビになるまで、誰も想像できない大冒険をしていたのです。果たして故郷の岸辺にたどり着けた子供は「どんだけ〜」いるのでしょうか(^^)。

着底生活に入った稚エビは2、3年後に成熟し、産卵行動に加わります。脱皮するため測定は難しいのですが、寿命は十数年と思われます。あるいはもっと長生きしているのかも知れません。

名前の由来・・・
現代では標準名はイセエビとされていますが、江戸では鎌倉で獲れたものが届くのでカマクラエビ、京や大阪には伊勢から届くのでイセエビと呼ばれていました。また、このイセエビの由来には異説もあります。磯で獲れるのでイソエビ、これが転訛してイセエビになったとか、勇壮な姿が「威勢の良いエビ」だということで語呂合わせでイセエビとなったとする珍説もあります。

エンジョイ・クッキング
代表料理は見るからに豪華な活き造りですが、本来の旨味を余すところなく味わえるのは味噌汁です。イセエビを豪快に殻ごとぶつ切りにして鍋に放り込んだ味噌汁は、素朴にして贅沢な最高の美味さです。身を刺身など他の料理にして、残った頭を味噌汁にしてももちろんいいですが、この時は長ネギや豆腐などをお好みで入れます。塩茹で、塩焼きの場合は加熱しすぎず、ミディアムレアが食べ頃です。殻付きのまま輪切りにして、日本酒と醤油、みりん等で味を調え炊きあげたものが具足煮です。殻を具足(甲冑)に見立てた名称です。洋風料理にも向いています。グラタン、リゾット、ドリア、チリソース等々焼いても煮ても炒めても揚げても美味しいです。


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