◆◇◆梅雨時に美味しい魚の話◆◇◆

イサキは当市場では周年入荷します。冬場には少量の天然物の他、養殖物も出回り途切れることがありません。特に関東から西では馴染みの深い、中高級魚です。便利になりすぎたため季節感が薄らいでいますが、イサキはスズキと並ぶ夏魚の代表格なのです。

イサキってこんな魚です・・・・
イサキはスズキ目イサキ科に分類され、仲間は太平洋、インド洋、大西洋と広範囲の暖海に分布し、世界で18属160種あまりが知られます。日本近海のイサキは東北地方以南、水深100m以浅の岩礁地帯に生息しています。姿は紡錘形でやや側扁し、頭部は丸みがあって口は小さく、左右の目の間隔が狭くなっています。背ビレには強い棘があり、大きな尾ビレは整った二叉状です。若魚時代までは背側に黄褐色の明瞭な縦縞があり、腹部は銀白色ですが、成長にともなってこの縞模様は目立たなくなり、背から腹にかけて濃い黒褐色のグラデーションになります。

梅雨時に美味しい魚
一般的に魚の旬は産卵期前とされます。産卵を控えてたくさんエサを食べ、脂が乗って美味くなるからです。それが産卵期に入ると、腹子や白子に栄養を取られ味がガクンと落ちるのです。ところが例外の魚もいます。産卵期に最も脂が乗って、尚かつ、腹子や白子という珍味まで持っているのですからこれは美味さの二重奏です。それが「梅雨イサキ」なのです( ̄^ ̄)。
イサキは大きくなるほど脂の乗りも一層良くなり美味いとされます。同じく産卵期に旬を迎える魚には、春のワカサギやサヨリ、夏のハモやキス、シマアジ、冬のボラやタラなどがいます。

船釣りの入門魚!?
イサキは大きな群れで行動するため、その居場所を当てると次々に釣れます。コマセに集まり、食い付き、引き味が良く、釣れだすとたくさん釣れる上に食べて美味しいとあって船釣りの入門魚とも言われます。とは言っても大物狙いになるとそれなりの技量が要求されますので、初心者から上級者まで楽しめる魚と言えます。

鍛冶屋殺し
イサキは骨が硬いことでも有名です。料理をすると骨離れが良く食べやすい反面、うっかり骨を飲みこんで喉に刺さりでもしたら大変です。昔、これが原因で和歌山の屈強な鍛冶屋が亡くなったことから「鍛冶屋殺し」の異名が付けられたと言われるほどす(^_^;。また、調理する際には鋭い背ビレの棘にも要注意です。持つところに気を付けないと指に刺さります。

名前の由来・・・
イサキの由来は磯に住む魚であることから「磯魚(いそき)」、あるいは、潮の速い荒磯に住む魚であることから「魚岬(いさき)」、いずれもその読みが転訛したと言われます。漢字では伊佐木という字も当てますが、鶏魚の方が一般的です。これは中国名が伝わったもので、鶏のトサカのような立派な背ビレから連想したものです。地方名は、イサギ、イッサキ、イセキ、マツ、ハタザコ等々があります。

生態・・・
神奈川、山口、長崎などの産卵期は6〜8月で、盛期は7〜8月です。和歌山や徳島ではこれより1ヶ月ほど早くなります。生後2年目の夏には成熟し、産卵行動に加わります。産卵数は体の大きさにより7万〜130万粒と大きな開きがあります。産卵は岸近くの藻場で1日に1回、何日にも分けて行われます。また、その時間も夜の8時前後1時間に集中しています。夜行性の強い魚なのです。卵は1mmほどの浮游卵で、オスの放つ精子と受精して約1日で孵化します。

稚魚は集団で浮遊しながら小型の動物プランクトンを食べて成長します。翌春には3cm、1年で12cmほどに成長し、岩礁地帯で生活するようにな ります。2年で20cm、3年で25cm、最大では50cmを超えます。エサも成長に伴って、貝の幼生、カタクチシラス、さらにカタクチイワシ、マイワシ、キビナゴなど、大きな物へと変わっていきます。
寿命は10年程度とされてきましたが、最近、耳石の切断面を観察することで20年以上であることが分かりました。

集団で定住生活
イサキは産まれてから死ぬまで常に群れで生活をします。そして大きな回遊はしません。普段の生活の場とその一帯での昼夜の深浅行動、そして夏場になると岸近くの産卵場所への移動、と行動範囲が限られている「根付き」の魚です。

イサキパワー全開!
脂の乗った旬のイサキにはもちろん、DHAやIPAなどの脂肪酸が豊富に含まれていますので、動脈硬化の進行を遅らせ、生活習慣病を予防する効果が期待できます。タンパク質やビタミン・ミネラル類の成分値は飛び抜けて高くはありませんが、尾頭付きの料理にすれば十分な栄養価です。ビタミンの中ではカルシウムの吸収を助けて骨や歯を丈夫にするDと、脂肪の酸化を予防して毛細血管の老化を遅らせるEが豊富です。

目利きのポイント
「イサキの生き腐れ」という昔の言葉がありますが、これは鮮度が良くても目が濁っているような色をしているため、あるいは昔は鮮度の良いものが手に入りにくかったことから来ているようです。でも新鮮なイサキの目は濁っていませんし力があります。体に張りがあって体色が褪めていないこと、エラが鮮紅色であることが目利きのポイントです。

エンジョイ・クッキング・・・
イサキ料理の定番中の定番は塩焼きと刺身です。魚料理の基本ですが、この素朴な食べ方がイサキの美味さを最も引き出します。他にも煮付けや蒸し焼き、揚げ物、洋風料理にも向いています。

中でも今回おすすめしたいのは、なめろうです。ネギと生姜と大葉をみじん切りにしてイサキに混ぜてタタキます。それに味噌を加えてさらに叩けばできあがり。とても簡単でひときわ美味い。酒の肴にもご飯のおかずにもピッタリです。刺身にするために引いた皮も捨ててはいけません。熱湯をかけて氷水にくぐらせ、取り出して細切りにします。これをワサビ醤油で食べてみて下さい。イサキの皮の美味さは別格です。

フライパンで皮目をパリッとソテーして、バターやトマトソース、バルサミコ酢、あるいは醤油をたらしても美味しいです。

もう一つ、忘れてはいけないのがこの時季の特典、腹子・白子です。薄味煮付け、ホイール焼き、フライパンでニンニクを炒めてソテー等々、簡単料理で十分楽しめます。今が旬のイサキを丸ごと味わって下さい(^^)。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2008年6月号