◆◇◆誤解だらけの魚の話◆◇◆

カラフトマスと聞いてもピンと来ない人の方が多いかも知れません。この魚が生鮮魚として出回るのは、春と夏の一時期ですし、全国的には流通していません。生鮮ではなく、塩マスなら多少は認知度が上がるでしょうし、実は、ほとんどの鮭缶の原料に使われていると言えば、「え〜、サケ缶ってマス缶だったの!知らないで食べていた。」ということになるのでしょうか f^_^; 。
同様に、幕の内弁当やサケ弁当のサケが実はマスだったとか、サケの筋子だと思って食べていた卵がマスだった、というのは良くある話で、皆さんもそれと気付かずに美味しくいただいていると思います(^^)。

東京・神奈川の小売店ではカラフトマスという表示はほとんど見かけません。単にマスの他、青マス、本マス、桜マスなどと別名ばかりが混同して使われ、売る側も混乱しています。名前ばかりではなく、昔のマイナスイメージの後遺症でいまだに評価が低く、誤解だらけの魚と言えそうです。

サケとマスで大混乱???
サケとマスの違いは、と問われると答えに窮してしまいます。それは分類学の問題ではなく、外来語や単なる商品名を含めた名称が入り乱れて使われているからです。最近では特に外国産の養殖サケ・マス類が増え、天然物と一緒に一年中流通していることが混乱に拍車をかけています。

分類学上は白サケ、銀サケ、紅サケ等もカラフトマス、サクラマス、ニジマス等も同じサケ属です。日本では、そもそも降海型か陸封型かで厳密に区別されたわけではないのです。にもかかわらず、降海型のサーモンをサケ、陸 封型のトラウトをマスと訳してしまったため、一層訳が判らなくなってしまいました。

今や和名のマスノスケはほとんど死語でキングサーモンですし、大西洋サケはアトランティックサーモン・ノルウェーサーモン。品種改良したものをチリで海中養殖しているニジマスにいたってはトラウトサーモン、あるいはサーモントラウトと呼んでいます。訳せば「サケマス」です・・・(^_^; 。
マスよりサケ、サーモンの方がイメージが良く売りやすいという身勝手な理由で、こんなに名前が増えてしまいました。

名前の由来と各地の呼び名は
昔、カラフトの川に大量に遡上していたことが由来のようです。別名はマス・アオマス・ホンマス・セッパリマス・ラクダマスなどがあります。ホンマスは地方によってはヤマメの降海型であるサクラマスの別名ですし、逆に三 陸ではこのカラフトマスの若魚が桜の咲く頃に大量に獲れるため、サクラマスと呼びます。消費地市場には同一の魚が各地の呼び名で入荷してくるため、そのまま流通してしまうことが多いのです。

ちなみに、カラフトマスの本家とも言うべき知床では、これを新たにオホーツクサーモンと名付けてブランド化しようと奮闘中です。英名はピンクサーモン、中国名は鱒魚です。

サケより美味い(^^)
カラフトマスの評価が低いのは、昔から大量にしかも容易に獲れ過ぎたこと、また、その時季が秋鮭より早い夏であったため、保存が難しかったことが主な要因です。今では喜ばれるはずの脂質の多さや身の柔らかさも、運搬手段や冷凍技術のなかった時代には価値を損なうものでしかありませんでした。これがマスはサケより不味い、サケに劣るという大きな誤解や迷信になってしまったのです。

実はカラフトマスこそ、今の時代再評価されるべき魚です。北海道の大自然が育んだ安全な天然物。脂があって柔らかい美味いマスなのです。現に日本以外では昔から秋鮭(シロザケ)よりも評価の高い魚です(^-^)。

カラフトマスってこんな魚です・・・
カラフトマスはサケ目・サケ科・サケ属に分類され、体色は背部が青黒色、腹部が銀白色で背面とアブラビレ、尾ビレには大きめの黒点が散在し、ウロコが小さくて剥がれやすいのが特徴です。この体色はまだ沖合にいる時のもので銀毛と呼ばれます。産卵期になり川を上ってくると背部は黒、体側は赤紫色のまじった濃い茶色の婚姻色が強くなります。また、オスは背が異様に盛り上がり、吻が伸びて「鼻曲がり」と呼ばれる面相になります。秋鮭(シロザケ)と比べると、かなりいかつい体つきです。降海するサケ類の中では小型で、最大でも70cmほどです。一生を淡水で過ごす陸封型は見られません。寿命はほとんどが2年です。

カラフトマスは北太平洋、ベーリング海、オホーツク海、北極海、日本海北部に分布しています。日本で遡上する河川は、日本海側では北海道北部、太平洋側では三陸以北ですが、特に根室海峡とオホーツク海側に全漁獲量の8  〜9割が集中しています。

生態・・・
大洋を旅したカラフトマスは、秋鮭よりも一足早く8月上旬頃から故郷の川を遡り始めます。あまり上流には上りません。支流や本流の川岸近くの砂利の間から河川浸透水が沸き出すような所を産卵場所に選びます。メスが砂利 を掘って産卵床を作りそこに800〜2000個の卵を産み付けると、オスがすかさず精子を振りかけます。それが終わるとメスが砂利で卵を覆い隠します。そして、産卵行動を終えると力尽きて生涯を終えるのです。この産卵 行動は水温によりますが10月頃まで続きます。

受精卵は冬の内にふ化しますが、稚魚は砂利の中でじっと春の訪れを待っています。4〜5月になり3.5cm程に成長して産卵床を出るとすぐに海に下ります。倍以上の寿命を持つ秋鮭のように、産まれた河川でしばらく暮らす余裕はないのです。

幼魚は9〜10月頃まで河口付近にとどまり、プランクトンやオキアミなどを食べて成長します。そして大海への旅立ちとなるのですが、行き先は定かではありません。それほど遠洋には移動しないと言われています。海洋で暮らすカラフトマスはイカや魚などを食べます。二度目の冬を過ごして夏を迎える頃には成熟し、故郷の川を目指します。

2年後に帰って来マス・・・!
母川回帰、産まれた川に産卵のために帰って来るというのは、サケの仲間の習性です。もちろんカラフトマスも同じです。それもほんの一部の例外を除いて、きっかり2年で帰って来るのです。このため世代の違う魚が交わるこ とはありません。これは世代間で交雑する秋鮭との大きな違いです。

1年おきに漁獲量が増減
世代間の交雑がないということは、何らかの自然環境等の変化である年の卵数が激減してしまうと、逆に激増させる要因がない限り、1年おきに増減を繰り返すことになります。オホーツク沿岸等では西暦奇数年に漁獲量が高く、偶数年に低いという変動を繰り返しています。

母川回帰の不思議
大洋を泳ぎ回ったサケ達は、故郷の川にどうして戻れるのでしょうか。古くから研究されていますが、そのメカニズムは未だに解明されていません。太陽コンパスや磁性体と地磁気、海流、水温などで自分の位置と進む方向を知り、嗅覚で産まれた川を特定すると推察されています。秋鮭の場合は、ほぼ100%、故郷の川にたどり着きます。ところがカラフトマスの場合は、その確率がいきなり60%に急落します(^_^; 。

それほどこだわりません
カラフトマスの残りの40%は生まれた川と違う川で産卵しているのです。これはふ化してから卵黄の栄養分で成長し、その後もほとんど川でエサを摂ることなく海に降りるため、嗅覚の記憶が乏しいのかも知れません。真相は どうあれ、カラフトマスにとっては、川の名前はそれ程の問題ではないようです。

サケ・マスパワー全開!
身は良質なタンパク質で、脂質には生活習慣病に予防効果のあるEPAとDHAが多く含まれています。また、ビタミンが豊富です。特にカルシウム吸収や筋肉維持に作用するビタミンDがたくさん含まれています。

エンジョイ・クッキング
養殖のサケ・マスはもちろん刺身でいただけますが、天然物は昔からルイベ(冷凍)にして刺身で食べていました。これは内臓や筋肉に寄生しているアニサキスを死滅させるためです。料理用途は実に豊富。生サケと同じですの で、是非季節の生鮮カラフトマスを探してみて下さい。サクラマスよりかなりリーズナブルです(^^)。焼き物、蒸し物、揚げ物、和洋中を問いません。HPにレシピを6点掲載しましたのでご覧下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2007年3月号