◆◇◆名脇役「おふくろの海藻」の話◆◇◆

おふくろの味と言えば、肉じゃがや切り干し大根の煮物等とともに、ひじきの煮物を思い浮かべる人も多いでしょう。昔から食卓に度々登場して来た人気者?と言うより、おふくろの味付けが物を言う名脇役と呼ぶべき存在ですね。ヒジキは海から採ったままの状態では渋くて硬くて食べられないため、長時間茹でて、数日間干した物が店頭に並びます。加熱処理すると風味が薄れます。でも、栄養価は失われませんし、食感も再生可能です。そこがおふくろの腕の見せ所になるのです(^-^)。

ヒジキってこんな海藻です・・・
小売店で一年中手に入れることができるのは乾燥ヒジキです。芽ヒジキ、長ヒジキと区別され袋詰めされたものが乾物売場の定番商品として品揃えされています。春の鮮魚売場には生ヒジキが並びます。でも、これらの製品だけからだと、海の中の生きているヒジキの姿は到底想像できません。

ヒジキは磯場の潮間帯(満潮時には海中に没し、干潮時には空気にさらされる所)の中頃に根を張って密生しています。海中では茎と葉を揺らめかせながら真っ直ぐに立ち上がっていますが、潮が引いてしまうと岩に張り付く髪の毛のようにベタリと垂れ下がります。

円柱状で中空の茎には不規則に小枝が伸び、たくさんの気胞と葉をつけます。これら小枝、気胞、葉は形状が異なるだけで同じものです。高さは50cm〜1m位で茎の太さは3〜4mmです。体色は見慣れた黒色ではなく明るい 褐色です。根は岩肌を這うように長く伸びます。
乾物の長ヒジキは茎の部分、芽ヒジキは気胞や葉の部分を選別したものです。

食物繊維の多さで一躍人気者に!
食物繊維が美容と健康のために欠かせないことは、すでによく知られていまますが、わずか30年前までは、それ自身は何の栄養素も持たず排泄されるだけの無用の長物と無視されていました。ところが、食べた糖分や塩分、脂肪分などをからめとって体外へ排泄する働きのあることが明らかにされ、見方が一変しました。便通を良くする、コレステロールの吸収を防ぐ、食べ過ぎを抑えるなどの働きは、まさに現代人の救世主と言えます。そんな食物繊維の豊富な食品の一つとして、海藻類が注目を集めました。中でも、食物繊維だけでなくミネラル類の多さも群を抜いている、アルカリ性食品の筆頭と評価されたのがヒジキだったのです(^-^)。
「おふくろの味」の復権です。・・・サプリメントではありません(^^)。

生態・・・
ヒジキは褐藻綱ヒバマタ目ホンダワラ科ヒジキ属に分類されます。暖海性の海藻で道南から九州にいたる太平洋岸、瀬戸内海、日本海南部の磯に分布しています。雌雄異体で、雌株の卵子に雄株の放出する精子が受精します。繁殖行動は5〜7月頃まで続き、受精卵はやがて岩などに付着して、生長し始めます。食用として採取されるのは3年ほど経って十分に生長したものです。一方、繁殖行動を終えた雌雄株は夏には枯れてしまいます。ところが、岩の上を這うように長く伸びた根は死なず、やがて新しい芽が出てきます。これを繰り返し、根は7〜8年は生き続けます。発芽体の生長は秋から冬の間はゆっくりですが、春になると急激に早くなります。

ヒジキの産地
ヒジキの採取解禁時期は各地異なります。早い所では12月、遅い所だと4月ですが、3月が多いようです。干潮の時間帯に波しぶきを浴びながら、根を傷めないように根元近くから刈り取ります。主産地は長崎、三重、愛知、熊本、千葉、宮城、神奈川、愛媛などで、国産品はすべて天然物ですが、消費量の1割に過ぎません。後の9割は韓国、中国の増養殖品です。増養殖と言っても海藻などの場合は、人工のエサを与えるわけではないので、それによって品質が劣るものではありません。

地元限定「冬ヒジキ」
ヒジキの旬と言えば、迷うことなく春と答えますが、採取している人たちにとっては違うのだそうです。採れる量や解禁日など人間の決めたルールを考えずに味だけで決めれば「冬」。それも、新芽が伸びて、まだ小枝や葉を出していない「1本ヒジキ」、これが柔らかくてアクがない究極のヒジキだと言います。しかし、冬は干潮が夜間ですからこの1本ヒジキを探し出すのが大変ですし、解禁前なので自家消費用にごく少量採れればいい方で、出回ることはありません。これは極めつけであるにしても、やはり冬ヒジキは風味が勝ると地元では高く評価されています。

季節限定「生ヒジキ」
生ヒジキと表示されている商品の中には、乾燥ヒジキを水戻した「生」で、季節を問わず、簡便商品として出回っているものもあります。採取して茹でただけで乾燥させていないものは、釜揚げヒジキとか、新物生ヒジキと表示していることが多いです。これはもちろん3〜5月頃の春季限定品で日保ちはしませんが、風味と食感は格別です。当市場ではもちろん、地元三浦半島産の新物が入荷しています。お住まいの地域の春の味覚を楽しんで下さい。
「1本ヒジキ・冬ヒジキ」ではありませんが十分美味しいですよ(^^)。

名前の由来
語源は不明ですが古名の「ヒズキモ」が転じてヒジキになりました。漢字名の鹿尾菜は、形状が鹿の黒くて短いしっぽに似ていることが由来です。

ヒソヒソ?話
04年にイギリスの食品規格庁が、「ヒジキに発ガン性物質であるヒ素が含まれており食べないほうがよい」と発表しました。この報道を覚えている人も多いと思いますが、日本人にとっては???の話で、厚生労働省は「日本人の通常の食生活であれば問題ない。バランスのよい食生活を心がけてほしい」とコメントしました。一般的にはヒ素と言えば猛毒というイメージが強いため、こういう報道を初めて聞くと驚いてしまいますが、ヒ素は自然界に存在する物ですし、他の魚介類等にも微量が含まれています。ただ、ヒジキに含まれるヒ素が他の海藻に含まれるヒ素とは違い、無機ヒ素と呼ばれる毒性の強いものであることがその根拠とされました。
毎日丼一杯のヒジキを食べ続ければ健康被害も起きるでしょうが、何であれ、そんな偏食を続けていれば体にいいわけがありません。当時、厚生労働省の反応が珍しく(失礼!)早かったため、大きな風評被害に至らずに済みました。健康の基本は「バランスのよい食生活」ですね。

ヒジキパワー全開!
ヒジキは食物繊維の中でもアルギン酸が豊富です。これは塩分を体外に排出したり、血中コレステロールを低下させる働きがあります。さらに嬉しいことに鉄分は全食品中第1位、カルシウムは海藻中第1位、カリウムの多さも群を抜くという優れた食材です。糖尿病や高血圧、高脂血症等に効果を発揮します。ただし、この鉄分は吸収率が良くないので野菜などのビタミンCと一緒に摂ること、また、体に吸収された鉄はタンパク質と結びついて働くため、タンパク質と一緒に摂ることが大切です。そう言えば定番ヒジキの煮付けには、ニンジンや大豆、しらたき等がたくさん入っていました。これはもう理想的な組み合わせです!

エンジョイ・クッキング----乾燥ヒジキの戻し方と煮物のコツ
ヒジキは空気中にさらされる時間が長いため、体内に水分を貯め込む構造を持っています。それを長時間茹でてカラカラに干したものが乾燥ヒジキです。と言うことは、ヒジキは戻し過ぎない、煮込み過ぎないことがコツになります。水に長時間浸すと水分を貯め込んでしまって味がしみなくなりますし、適度に戻したものを煮込み過ぎると味が濃くなってしまうのです。柔らかい中にも歯ごたえのある「おふくろの味」に再挑戦してみて下さい。

■NHKためしてガッテンで紹介された「ヒジキの戻し方と煮物」
1.水戻し30分
2.水戻ししたヒジキを軽く絞って皿に広げ、電子レンジで加熱1分30秒(乾燥ヒジキ10gの場合)----水分を飛ばしてダシをしみ込みやすくします。
3.具材・合わせダシと煮込む時間は3分程度。歯ごたえ重視の場合は合わせダシを使わず、調味料だけで具材とヒジキをゴマ油で炒めます。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2007年4月号