◆◇◆江戸前の食いしん坊の話◆◇◆

身近なのに滅多にお目にかかれない魚・・・それがマハゼです。昔から魚屋で買うよりも自分で釣って食べる魚なのです。現在でもその習慣?は変わりません。鮮魚や活魚で市場に入荷することが少ないため、小売店でもその姿を見かけません。目の前の東京湾にも沢山住んでいて、初心者マークの釣り人にも大人気の魚なのですが・・・。

マハゼってこんな魚です・・・超!大所帯!
一般に「ハゼ」と言えば「マハゼ」のことですが、このマハゼはスズキ目ハゼ亜目ハゼ科に分類されます。ハゼ亜目は世界に2千種以上、日本には370種以上もいるという大所帯で、研究途上のため、その数はいまだに増え続 けています。日本で食用にされているハゼ科の魚種は、左右の腹ビレが合わさり、丸い吸盤状になっているのが特徴で、ウキブクロはありません。仲間にはヨシノボリ(ゴリ)やムツゴロウ、シロウオ、イサザなどがいます。

体色は淡い褐色で黒い斑紋が背側や2基に分かれた背ビレ、尾ビレに散在し、腹側は銀白色です。体形は円筒形で頭部は長く大きく、眼は頭の上部にあり左右が接近しています。ハゼ科の中では大型で、親魚は体長20cmほどですが、最大では25cmを超えます。寿命は普通1、2年で、例外的に3年も生きるものもいます。

北海道南部から九州の内湾、河川下流域が住みかで、特に松島湾、東京湾、浜名湖、伊勢湾などに多産します。泥底を好み、ゴカイ類や小魚、アオノリなどの海藻類を主に食べます。

実は出世魚です(?_?)
マハゼは成長の過程で何度も名前を変える出世魚です。ただ、他のメジャーな出世魚に比べるとあまりに身近なためか、そうは呼んでもらえないだけです。7月頃に釣れ出す5〜6cmの稚魚を「デキハゼ」、9月頃10cmを超える若魚を「彼岸ハゼ」、20cm近くに成長した晩秋、産卵のため深みに落ちる親魚を「ケタハゼ・落ちハゼ」と呼びます。そして真冬、婚姻色で口の周りが黒くなったものを「お歯黒ハゼ」、さらに、夏のデキハゼに混じって釣れる13〜18cmの2年魚は「ヒネハゼ」と呼ばれます。これだけ名前を持つというのは、人気者である確かな証しです(^-^)。

江戸前の食いしん坊
マハゼの人気の秘密は食べて美味しいことはもちろん、誰よりも食いしん坊であることです。しかも、人の住む目と鼻の先に住んでいることです。元来、汽水域で生活するマハゼは川をかなり遡り、淡水で生きることも十分可能です。それだけ人と出会う機会も多かったわけです。マハゼが大の食いしん坊であることは釣られやすいことが物語っています。老若男女を問わず、初心者でも容易に釣ることができます。夏から秋のハゼ釣りシーズンには東京湾のあちこちの河口で、にわか釣り師も含めて大賑わいとなり、現代でも江戸前の秋の風物詩となっています。

江戸前に負けず劣らず宮城県松島湾のハゼ釣りも盛んです。こちらは水温が低い影響で1年魚の成長が遅く、2年魚になって産卵します。このため初秋から大型のヒネハゼがたくさん釣れるのです。宮城では昔から、晩秋に釣り上げた特大ハゼを焼き干しにして保存し、正月の雑煮のダシとしています。

江戸庶民の陸釣りVSお大尽の舟釣り
昔から人にとって容易に手に入る物は価値を低く見られたため、マハゼは雑魚(ざこ)扱いで大昔の文献には登場しません。ところが庶民文化全盛の江戸時代には一躍人気者だったことが多くの書物によって伝えられています。庶民はもっぱら岸から釣り糸をたれる陸(おか)釣りで、デキハゼや彼岸ハゼ専門。お大尽遊びは舟を仕立てて名酒を味わいながら釣り糸を垂れる・・という優雅さで、大変人気があったとか。その贅沢は現在にも伝わり、釣り上げたばかりのハゼを釣り船の上で天ぷらにしていただくのが最高だそうです(^^)。

ダボハゼって誰のこと?-----どうでも良くない大切な話です`_´
ダボハゼという言葉は、昔は一般によく使われていたように思いますが、最近(と言ってもすでに4年前の話ですが)、久しぶりに耳にしました。石原都知事の議会での「ダボハゼ発言」です。「投げたルアーに、片言隻句に喜ぶ馬鹿なメディアがダボハゼのごとく食いついて・・・云々」と述べたのです。これは何にでもよく食いつくという意味で使われています。あたかも庶民の人気者「マハゼ蔑視発言」のように受け取られかねませんが、本来の意味は違います。
ダボハゼとは同じハゼ科のチチブやヨシノボリなどの俗称です。また、淡水産の小形のハゼ類の総称で、多くは食用にならないところからの蔑称なのです。断じてマハゼのことではありません。「何だダボハゼか。マハゼだと思ったのに。」という風に、釣り人の間では「マハゼ礼賛」言葉として正しく使われます(^-^)。
マハゼも確かに何にでもよく食いつきますが・・・(^_^; 。

大雨が何よりも怖い!
マハゼが最も恐れるのは、人ではなく大雨です。集中豪雨による河川の急激な増水は、川底のヘドロなどを巻き上げながら湾内に流れ込みます。これらの有機物が分解されて無機物になる過程で、水中の酸素を大量に消費してしまい、急激な酸欠状態を引き起こすのです。汽水域に住む魚介類にとっては最悪の事態です。これはコンクリート砂漠となった都会の致命的な欠陥です。河川の水質浄化だけでは足りません。まずは目の前の海を守らねば!

生態・・・マイホーム造りと子守は父親の役目
晩秋11月頃に、水深10mほどの深みに落ちたケタハゼのオスは砂泥底にトンネルを掘ります。これは産卵、子育てのための巣穴で、長さは1m以上もあります。ペアとなったオスとメスは、食事をしに外出する以外はこの巣穴にこもり、メスが成熟するのを待ちます。1〜3月になるとメスが巣穴の壁に卵を産み付け、オスが放精して受精させます。受精卵が孵化するまでの1ヶ月間、卵を守るのも父親の役目です。子孫の誕生を見届けた後、やせ衰えた両親は短い生涯を閉じます。

春先に孵化した幼魚は5mm前後で浮游生活を始め、17mm位に成長すると底生生活に入ります。エサをよく食べ急速に成長を続け、夏にはデキハゼとなって大きな群れを作り、釣り人達が待ち構える河口の岸部へとデビューするのです。育ち盛りのマハゼ達の目の前に大好物のゴカイが・・・・・。

マハゼパワー全開!-----
低脂肪、低カロリーで血圧の上昇を抑えるカリウムと骨を作るカルシウム、良質のタンパク質を多く含みます。ただ、揚げ物にすると高カロリーになりますが、小型を丸ごと唐揚げにすれば、カルシウムをたっぷり摂れます。栄養価だけを考えれば、佃煮や甘露煮が最も良いのですが、やはり、ハゼと言えば、天ぷらすね(^^)。

目利きのポイント
生鮮物であれば体に張りがあって黒い斑紋が明瞭であること、眼が澄んでいること、ウロコが付いていてヌメリがあることがポイントです。生開きなら皮目の色が褪めていなくて身に透明感と弾力があることがポイントです。

エンジョイ・クッキング----
マハゼはサイズによって料理方法が違います。本来の旬は丸々と太って脂が乗り、はちきれんばかりの真子・白子を抱えた産卵前の真冬です。刺身、塩焼き、煮付けに最適です。小さいものはワタだけとって唐揚げ。中型なら刺身か開いて天ぷらに。天ぷらは皮の持つ香ばしさを生かすために、やや高温で揚げるのがコツです。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2007年10月号