◆◇◆小さな優等生の話◆◇◆

シジミは有史以前から、日本人に最も愛されてきた貝類の代表格の一つです。シジミの味噌汁は季節を問わず食卓に欠かせぬ存在ですが、旬とされるのは夏と冬の二度あります。土用シジミと寒シジミです。人気の高いシジミですが、江戸時代の川柳に「たくさんに 箸が骨折る しじみ汁」とあるように、シジミ汁は好きなんだけど身が小さすぎて食べるのが面倒という人、あなたは「シジミパワー」の半分しか吸収していません!それはもったいない!

シジミってこんな貝です・・・
シジミを知らない人はいないと思いますが、まじまじと観察したことがある人や追究したことのある人は多分少ないでしょう。そこで、あらためて紹介しましょう。全国的に流通している国産シジミのほとんどはヤマトシジミというのが本名です。マルスダレガイ目シジミ科に分類されます。生産量が激減してしまい、今や地域限定の流通になってしまいましたがマシジミとセタシジミも古来から親しまれてきた日本のシジミです。

ヤマトシジミは淡水(川や湖)と海水の混じり合う汽水域砂泥底が住みかです。北海道から九州までの各地とサハリンや朝鮮半島に分布するハマグリ型の二枚貝です。貝殻は蝶つがいのある殻頂を中心に、木の年輪のように同心円状に成長します。環境によって異なりますが1年で殻長5〜7mm、2年で10〜15mm位になり、2〜3年で成熟します。20mm以上になると成長のスピードは緩やかになります。最大で30mm位ですが、まれに40mmを超えるものもいます。寿命は明らかではありませんが、10年以上と言われます。色は住む環境によって、黒、茶、薄茶、緑がかったもの等かなり違いますが、当市場では黒くてツヤのあるものが好まれています。

生態・・・ヤマトシジミ
シジミの産卵期はおおむね7〜9月、夏です。メスは卵をオスは精子を出水管から煙のように放出して海中で受精します。受精卵は3〜10日間水中を浮游した後、稚貝となって着底します。この時の大きさは砂粒ほどですが、すぐに成貝と同じ生活を始めます。入水管から水を取り込み、エラで酸素を体内に取り入れて呼吸します。同時に水中の有機物を濾し採ってエサにするのです。

水質の番人・・・環境の変化に非常に敏感です
シジミは淡水のみ、海水のみでもある程度の期間生きることはできますが子孫を残すことはできません。適度の塩分濃度(海水の1/10〜1/3)が必要です。また、適度の水温、水中の酸素量、エサの量も大切です。ところが、汽水域の環境はとても変化しやすいのです。大量の雨が降れば塩分濃度が低くなりますし、海水の流入量が増えれば高くなります。水温の変化もそうですが、このような自然環境の変化には底土に潜ったり出てきたり、自らの体内調節機能を働かせることで十分対応できます。問題は水中の酸素とエサの量です。

これを大きく変動させる要因は人間です。環境を破壊する工事や産業排水、生活排水などです。水の動きの少ない湖や河口域にこれらが大量に流入すると植物プランクトンが異常発生し、やがて底に堆積してヘドロになります。このヘドロをバクテリヤが分解する時に大量の酸素を消費してしまうため、水底の酸素量が欠乏してしまいます。魚のように逃げ出すことのできないシジミは死を待つしかありません。シジミの生活できる水質を守ることがとても重要です。

旬と産地・・・寒シジミVS土用シジミ
キヤマトシジミの旬は、産卵に備え身の太る春から夏です。土用シジミと呼んで「夏が旬」をアピールしています。一方、寒シジミは本来、春から秋に何度か産卵する淡水産のマシジミの旬でした。ところが、今ではマシジミが激減してしまい、ヤマトシジミが代役を務めています。水温が下がる冬にはヤマトシジミは底土に深く潜り成長が止まります。そのため、身は太ってはいませんが十分な栄養分を蓄えています。身入りと旨味を楽しむ夏と、深いコクを楽しむ冬、というわけでシジミの二度の旬を楽しんでください。

名高い産地には、宍道湖、利根川河口域、涸沼湖、十三湖、小川原湖、藻琴湖などなど日本各地にあります。漁獲量では利根川河口と宍道湖で全体の7割を占めます。

名前の由来
殻が小さく縮んでいるように見えることから「ちぢみ」が転じて「しじみ」になったといわれています。漢字の「蜆」は、虫(小さなもの)+見(現れる)で、浅瀬に姿を現す小さな貝という意味になります。

ヤマトシジミは空を飛びます! ・・・蛇足 (^^ゞ
ヤマトシジミと聞くと貝ではなく、空を飛んでいる方を思い浮かべる人もいると思います。普段食べているシジミをわざわざヤマトシジミとは何かの理由がない限り呼びません。空を飛ぶヤマトシジミとは、昆虫のチョウです。日本の平地で最も数が多いと言われている小さなシジミチョウですが、そのほとんどがヤマトシジミだそうです。日当たりのよい場所に食草のカタバミがあれば、たいていこのチョウを見ることができるといいます。もっとも、残念ながら都会ではチョウに出会えることはほとんどなくなりましたが。ちなみに、このシジミチョウの由来は、その色がシジミの殻の内側に似ているからです。やはり、シジミの元祖は貝でした(^^)。

シジミパワー全開! 「シジミよく黄疸を治し酔いを解す・・・」
素晴らしいシジミパワー!それが立て続けにマスコミに取り上げられたのはもう5年以上も前だったでしょうか。当時はシジミが品薄状態になったほどでした。健康に良い、美容に良いというのは現代人には最もインパクトが強いですね。おさらいしてみましょう。

「シジミよく黄疸を治し酔いを解す・・・」と、古くからシジミの薬効は広く知られていました。これは良質タンパク質の条件である必須アミノ酸の含有量とバランスが最高で、消化吸収がよく肝臓に負担がかからないばかりか、その働きをを助けてくれること、タウリンが肝臓の解毒作用を活発化すること、ビタミンB12が肝機能を高めることなどがその理由です。シジミに含まれるB12や鉄はレバーに匹敵します。さらに、ウナギの1.4倍 、牛や豚ヒレ肉の2倍ものビタミンB2を含み、カルシウムも豊富です。効能をまとめると、肝臓病、貧血、骨粗そう症、二日酔い、となります。ちなみに、二日酔いの場合はシジミの味噌汁と梅干しを一緒に食べると相乗効果があるそうです。必要に迫られた時にはお試しを・・・。

栄養と旨味の増す下準備
砂出しの常識は「アサリは塩水、シジミは真水で」というものです。アサリは海にいるのでもっともですが、ヤマトシジミは汽水域、つまり薄い塩水が住みかです。真水でも砂は確かに吐くのですが、栄養価を十分引き出すことができません。また、砂出し後すぐに調理を始めると、旨味成分を増やすこともできないのです。
そこで「栄養と旨味の増す砂出しの仕方」の紹介です。これは以前、NHKの「ためしてガッテン」で放映されていましたので覚えている方も多いと思います。私もこの方法を試した結果、少々補足して皆さんにオススメします。

1.砂出し:シジミ1kgに対して水500cc、塩小さじ1杯(約5g)を目安に、口の広いバットなどを使い、シジミが隠れるくらいのヒタヒタの塩水で4時間。この時、なるべく暗くて冷たい場所に置いてください。
2.水気を切って、濡れ布巾をかけたシジミを空気に3時間さらします。この場合、夏であれば冷蔵庫に入れてください。
3.調理をする前に、水道水を流しながら殻と殻をこすり合わせるようにして貝殻に付いた汚れを洗い流します。これで準備完了です。

★1%の塩水に浸すことによって砂出しと同時に、タンパク質を作っているアミノ酸を増やすことができ、空気にさらすことによって旨味成分であるコハク酸を増やすことができるのです。美味しく食べて健康になるためには手間が欠かせません。

おすすめクッキング・・・汁だけではありません(^^)
定番はもちろん味噌汁!これははずせません。それ以外は・・・作ったことがないという人がほとんどかも知れません。でも作り方は簡単。問題は小さすぎて食べるのが面倒という「偏見」を取り去ることだけです。シジミは出汁を取った後の身に、まだ半分近くの栄養が残っているのです。これを食べなくてはシジミに申し訳ありません。オススメはシジミ雑炊、これならシジミの旨味を余すところなく堪能できます。レシピを用意しましたのでどうぞ。他にもシジミの炊き込みご飯、ピラフ、スパゲティ、シジミの塩味ラーメン、佃煮等々、是非試してみてください。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年1月号